28.向き合い方は人それぞれ(2)
「待ってください、隊長!」
やっとゼノンに追いつく。街の外れの方で、雑踏はまだ遠い。
「……なぁ、ローリス」
ゼノンは立ち止まって唐突に切り出した。
「お前、前に俺に聞いたことがあったよな? なんで俺が中央本部の高官を目指すのを止めたかって」
「あ、はい。聞きました」
ローリスは不思議そうにゼノンの顔を見上げる。確かに、そんな話をした記憶はある。
「……教えてやるよ。大勢の人の上に立つには、嫌なことも言わなきゃならないし、それで憎まれたり、妬まれたりしたとしても、何食わぬ顔でいなければならない。俺は気が付いたんだ、お偉方になるっていうのはそういうもんだってな」
正義感の強いゼノンは、多くの住民や兵士たちの安全のために古風な思想に囚われた治安軍の組織や訓練の抜本的な改革を提案した。しかし、それを進めようとするたび、耳の痛い上司はそれを退けた。
さらには周囲の部下や同僚までもが、
「黙ってりゃ良いのに、ゼノンさんがまた熱い苦しいこと言ってるよ」
と陰口を言っていたことは知っていた。彼らは現状の良し悪しに関わらず、変化を望んでいなかった。
ゼノンは治安軍本部の中で嫌われ者となってしまった。
「そこまでして人の上に立つなんて、俺には出来なかったよ」
ゼノンは自嘲するように笑った。
「しがない泥被りの一隊長でも、ここには俺を必要としてくれる人が居る。今の生き方の方が、俺の性には合ってる」
脳裏には、彼を慕う兵士たちの顔が浮かんでいた。
しかし、すぐに彼の顔に影が差す。
「あいつのことも、良かれと思ったんだが、俺は、また性に合わないことをしてるのかもな」
ゼノンの背中は寂しそうだった。
「いや、それ、ちょっと違いますよ」
ローリスは隣に並んで言う。
「エリアはゼノンさんのことを嫌ったり、妬んだりしてないです。あいつなりにゼノンさんに理解して欲しいけど、伝わらないから悩んでるってだけだと思います」
ゼノンは、はっとした顔で隣のローリスを見た。
しかし、すぐに口元を吊り上げてにやりと笑うと、ローリスの頭を肘で小突いた。
「ちょっ、何するんですか!?」
ローリスは小突かれた場所を両手で押さえる。ゼノンはちょっと小突いたつもりだったろうが、かなり痛かった。
「生意気なんだよ」
言うと、ゼノンは少し前に進み出て軽い溜め息を吐く。
「……まぁ、でも、あいつにもあいつの考えがあるらしいな。暫くは黙って様子を見てやるか」
ローリスはまだ頭を抑えて痛みを堪えている。
「それか……」
ゼノンはちらりと振り返り、咳払いをする。
「お前があいつを貰ってくれたら俺も肩の荷が降りるんだがな」
「は!? いや、ちょっとそれは……!」
ゼノンは豪快に笑い飛ばした。
「冗談だよ、冗談!」
「なんだ、脅かさないでくださいよ」
「……たぶんな」
「ん!? 今、何か言いました?」
ゼノンは高らかに笑い声を上げながら、街中へずんずんと歩いて行く。
「おい、さっさと行くぞ。今日は俺と同じ訓練をこなしてもらう。昨日の規則違反の罰としてな」
「あぁ、ほんと世知辛い……」
ローリスも小走りで駆け出して追った。
二人の姿は街の中へと消えて行く。
以上で第一章が終了となります。
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