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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第1章
28/79

27.向き合い方は人それぞれ

「うぅ、身体が、重い……」


 昨日、勤務の日よりもハードな非番を過ごしたローリスは、気だるそうに階段を降りてくる。


「おはよう、ローリス」


 先に階下で朝食を食べていたアマルティアが笑顔を向ける。

 ニコラはもう仕事に出たようだ。


「おはよう」


 あくび混じりに挨拶を返すと、アマルティアの正面に座る。

 そこにニコラが作ってくれた食事が置いてある。


「今日は俺も夜まで戻らないから、まぁ、ゆっくりしててくれ」


 朝食を摂りながら、ローリスは言う。


「ありがとう。街の中を見て回りたいんだけど……」

「ああ、自由に行って来なよ。ただ、物騒なところもあるから、気をつけて行けよ」


 ローリスは手早く食事を済ませたらしく、もう皿は空になっていた。

 彼は立ち上がって、部屋の隅にある箪笥から何かを取り出した。


「ほら、手ぇ出しな」

「?」


 アマルティアは促されるままに、手を差し出す。

 ローリスはアマルティアの手のひらの上に何か小さなものを置いた。


「これ、ローリスが耳に着けてる?」


 ラピスラズリの欠片を埋め込んだイヤリングだった。


「それがあれば、通話ができる。あと家にも自由に出入りできる」


 海底都市では、ほとんどの人が何かしら身につけているアクセサリーで通話できる。アクセサリーの形はまちまちだが、共通点は魔法石ラピスラズリの小さな欠片がが埋め込まれている点だ。


 海底都市に存在するラピスラズリは各アクアリウムの塔にあるラピスラズリと繋がっていて、海底都市のどこに居ても通話ができる。


 また、「鍵」としての役割もある。家のドアやビークルの作動時に、このラピスラズリが持つ魔力の型「魔性紋」を元にロックを解除する。


 他に買い物の際に金銭のやり取りなどにも使用する。

 大事なものなので、落とさないようにアクセサリーにしておくのが、海底都市では一般的だ。


 ちなみに昨日、ニコラが通話出来なかったと言うのは、塔のラピスラズリに不調があるアクアリウム内に居たためのようだ。


「失くさないようにな」

「うん、ありがとう」


 アマルティアは大事そうにそれを手のひらに包み込む。


「大事にするね」


 不意に笑顔が向けられる。


「お、大袈裟だな」


 ローリスは照れた様子で言うと、逃げるように階段を上がって行った。

 やがて兵装を身につけて戻ってくる。


「じゃあ、俺は仕事に……」


 と言いかけたローリスの目の前に何か大きな影が落ちる。


「!?」

「っっったぁ〜!」


 落ちた何かが声を上げる。

 エリアだった。

 落ちた時に打ったらしい尻をさすりながら立ち上がる。


「もはやノックも無しかよ」


 ローリスはげんなりとしている。

 そして、玄関の扉を力強くノックする音が聞こえる。


「ローリス、開けてくれ!」


 外から声がする。言うまでもなくゼノンの声だ。

 玄関の鉄扉がスライドして開く。


「朝から悪いな」


 と断りを入れたうえで、家にゼノンがずんずんと入ってくる。

 エリアは、一連の騒ぎで立ち上がっていたアマルティアの影に隠れてこちらをのぞいていた。


「エリア、いい加減にしろ! 昨日約束しただろうが!」


 ゼノンはこめかみに血管が浮き出ている。


「いやよ! 人に決められた仕事なんてあたし、したくない!」

「お前な……そんなのみんな同じだ! 生きていくためには仕方がないだろうが! お前はいつまで人生から逃げているつもりだ?」

「逃げてないわよ! あたしは、あたしにしかない人生を見つけたいだけなの! そのために時間をかけることが、なんで逃げることになるのよ!」


 ゼノンに負けじと大きな声で言い返すエリアの目からは、涙が堰を切って溢れている。

 まだ何か言いたげな顔をしていたが、ゼノンはぐっと呑み込んで黙った。

 エリアの涙を見て少し頭が冷えて来たようだった。


「た、隊長、ほら、仕事! 仕事に行きましょう!」

 それを見計らって、ローリスはゼノンの目の前に入って言う。

 ゼノンは何も言わずに振り返ると、家を出て行った。


 ローリスはそれを追いながら、こちらを見ていたアマルティアに目で「頼む」と合図する。

 おおかた意図が伝わったらしく、彼女は頷いた。


 アマルティアは啜り泣くエリアの背中を優しくさする。

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