26.帰宅
エリアの家から、細い小道を通って帰る。
「なんか、可哀想だったね」
その帰り道の最中に、アマルティアは言った。
「今まであんなに反省した姿を見たことないし、これに懲りて無茶なことは止めてくれたら良いんだけどな」
ローリスは苦笑いしながら言う。
「ところでアマルティア。あれ、何だったんだ?」
ローリスは足を止めた。
「え……?」
アマルティアは振り返る。
「あの、エリアの怪我を治したやつとか、水の剣? みたいのなので敵を倒したりとか……」
普通の魔術は型があって、戦闘に魔術を用いる魔術師となれば、過去に確立された攻撃用の魔術を、確立された練習法で鍛錬し、そして習得する。
しかし、あの水の剣での攻撃も治療術も、過去に全く見たことがない。
「わ、私にも、分からない」
アマルティアは、身体の前で思わず握り合わせてしまった両手をもじもじとさせて、目を泳がせる。その様子から明らかに嘘だとは分かった。
ローリスはしばらくアマルティアを見ていたが、ふっと表情を緩めるとまた歩き出した。
「ま、言いたくないなら良いけどさ」
彼女のことはまだよく分からないが、少なくとも事実として分かることは、彼女は自分と幼馴染の命を救ってくれたと言うことだ。
とりあえず今はそれで十分だろうとローリスは思った。
気が付くと、街中の照明は夜間用に切り替わって、街灯に灯りが灯っていた。
家に戻ると、円卓に顔を伏せていたニコラが立ち上がって、ローリスの胸に飛び込んだ。
「どこ行ってたの? 心配したんだから! 連絡しても応答もないし……」
ローリスの胸に顔を埋めたまま、涙声でニコラは言った。
「あぁ、ちょっとトラブってさ」
ローリスは、はぐらかした。
帰って来ないだけでもこの反応なので、詳しくは話そうと思わなかった。
「ばか! お兄ちゃんのばか!」
しかし、ニコラは生きた心地がしなかったに違いない。彼女にとって唯一の家族である、ローリスを失うことほど絶望的なことはない。
ニコラは握りしめた拳を突き上げて、ぽかぽかとローリスの頭を殴る。油断していたが、これが結構痛い。
「悪い、謝るから……いでっ! ……止めてくれ」
そんな騒ぎの中、二人の耳に聞こえるほどの大きな音で、アマルティアの腹の虫が鳴いた。
ローリスとニコラは、目を点にしてアマルティアの方を見ると、彼女は恥ずかしそうな顔をする。
二人は顔を見合わせて声をあげて笑った。
「さ、ご飯にしよ。お姉ちゃん」
「お姉ちゃん……?」
アマルティアは聞き返す。
「うん、何だか家族が増えたみたいで嬉しいな」
ニコラは笑顔で言うと、軽い足取りでキッチンへと向かう。
アマルティアは、胸の奥に不思議な感覚がして口元を綻ばせる。
ローリスはその様子を見て微笑む。
「ほら、突っ立ってないでさっさと飯にしようぜ」
ローリスはアマルティアの肩を叩くと家の奥へと入っていく。
「今日も仕事は順調だったか?」
「うん、今日はまた三台仕上げたの」
「ニコラはどんなお仕事をしてるの?」
「乗り物に乗せるラピスラズリを生産する工場だよ。今度、お姉ちゃんも連れて行ってあげる」
食卓での会話は賑やかだった。




