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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第1章
26/79

25.光の消えたアクアリウム(11)

 部屋の中央ではアイリスが両手をラピスラズリの表面にかざして目を閉じていた。今、ラピスラズリの中の状態を調査しているらしい。

 隣でゼノンが、真剣な表情で腕を組んでいる。


「どうだ?」

「当たりのようです」


 アイリスが目を開く。


「一部の回路に手を加えられてます。アクアリウム内の魔法照明の制御機構に置き換えて、不可解な魔術の術式が組み込まれていました」

「やはりか」


 ゼノンはつぶやいた。

 この死霊術の件は、ここのアクアリウムが最も被害が大きかっただけで、海底都市全体で突発的に発生していた。中には連続して別のアクアリウムで発生したこともあった。


「都市の各地で散発していたのは、恐らく、ラピスラズリを通して各所へこの死霊術を発信していたからでしょう」

 

 ラピスラズリはそれぞれが単体で動いているわけではなく、中央アクアリウムに安置された大ラピスラズリの統括管理のもと、全てのアクアリウムのラピスラズリと繋がっている。恐らくは

このラピスラズリに死霊術を仕込んで各アクアリウムへと死霊術を発信していたと言うのである。

 ゼノンは「うむ」と頷いた。


「それに一つのアクアリウム全体に影響を及ぼすほどの死霊術領域を作るには、一人の魔力では到底不可能だ。何かしらの増幅装置が必要だと思っていたが、やはりラピスラズリを通していたか」


 最も、ラピスラズリにそんな高度な操作ができるものはそうそう多くない。


「となると、次なる問題は誰が、と言う点だな」


 報告を聞いたゼノンは考え込むが、その人物も目的も見当がつかない。


「あの、そのことですが……」


 とアイリスが気まずそうに切り出す。


「何かわかったのか?」


 ゼノンは目を見張る。


「いいえ、誰がやったかまではとても確認できませんでした。でも、ラピスラズリを調査している最中で……」

「なんだ? 何があった?」


 ゼノンは急かすように聞く。


「魔術が途切れた瞬間に信号が送られるように設定されていました。恐らく、私の作業した情報も全部その信号に……」

「つまり、こちらの動向は全て向こうにバレたということか」


 となれば、これをしでかした犯人は、警戒して身を隠す。

 ゼノンは眉をひそめて考え込む。


「とにかく、ご苦労だった。中央本部には俺から報告しておく」


 彼の表情が緩んだ。


「皆を集めてくれ、帰るぞ」




「お前は今日でクビだ」


 アクアリウムの拠点まで戻ると、ゼノンは仏頂面でローリスに言った。


「えっ……」


 ローリスは目を点にして見つめ返す。頭が真っ白になった。


「ははは、冗談だよ!」


 沈黙の後、急にゼノンが豪快に笑い始めた。


「実際、機密のはずの作戦が漏れていて、一般市民を巻き込んだとなれば、危ないのは責任者の俺も同じだ」


 ゼノンは真面目な顔に戻る。


「どうせあいつが、お前を引っ張って行ったんだろう? いつもうちの妹が悪いな」

「い、いいえ、もう慣れたものですから」


 ローリスは恐縮する。

 そして、ゼノンは少し離れて立つエリアの方を見た。


「分かってるな?」


 ゼノンは聞いた。

 エリアは俯いたまま黙っている。

 二人の間で何か約束を交わしたらしい。


 いつもトラブルの中心となっては全く反省の色を見せない問題児のエリアでも、今回は無茶をしすぎた自覚があるらしい。


 ゼノンはその後の処理があるらしく、エリアとアマルティアを家に送る役目はローリスに任せた。そもそも、三人はここに居なかったことにしなくてはならない。


 帰りの道中。三人はほとんど口を開かなかった。疲れたのもあるが、エリアの周囲を漂う、どんよりとした空気に口を開くのも躊躇われた。


 エリアを家の前まで送り届けたが、


「二人とも今日は、ごめん」


 と消え入りそうな声で別れの挨拶をすると家に入って行った。


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