21.光の消えたアクアリウム(7)
この部隊の大半を占めるライフル兵は絶え間なく撃ち続けたが、敵の数がこちらより多い上にあちこち予想のしない場所から飛び出して来る。
さらには剣や槍を持った突撃兵が無秩序に散らばって混戦となっており、ライフル兵は誤射を気にしながら戦わねばならなかった。
隊の外殻の兵士たちは既に数人が屍に斬られて負傷し、地面に伏している。
陣形の外側を突破した屍が、中央の治癒士たちを襲った。
一体がアイリスに襲い掛かろうとする。
「きゃあ!」
と悲鳴が上がった。
しかし、屍がアイリスに飛びつく前に、横からローリスの槍が伸びてきて脇腹の発光部を突いた。屍は横に崩れ落ちた。
「大丈夫か、アイリス姐!」
槍を引き抜きながら、ローリスは振り返る。
アイリスは強張った顔で頷く。
ゼノンは戦いながらも、その様子が見えていた。
(このままでは、全滅するのはこちらだな)
と一瞬、思考を巡らせる。
「全員、塔へ移動するぞ! 急げ!」
ゼノンが大きな声で叫ぶ。
目的地でもあるアクアリウムの中央にそびえる巨塔へ逃げ込むつもりだ。
「突撃兵は隊の前方で退路を切り開け! ライフル兵は全員後方! 訓練通りにやれ!」
ローリスも加わり、突撃兵たちは、たった二十人ほどで前方から押し寄せる屍たちを切り捨てながら道を開いた。
新米と思われる若い兵士は一体の屍を切り裂いた。
(こんなの俺たちだけで大丈夫かよ)
今、切って捨てた屍の後から既に三体がこちらに向かって走ってくる。どうやって相手をすれば良いのかわからない。
しかし、横から現れたゼノンの剣がその三体の頭を一片に薙ぎ払った。屍の体が地面を転がる。
思わず新米兵士は手が止まる。
「す、すっげぇ……」
「ぼさっとするな! 突撃隊列を組め!」
ゼノンは叫んだ。
指示通り、全員が矢じり型に並んだ。
ゼノン隊長の活躍は際立っていた。
突撃兵たちの隊列から敢えて一人突出し、右手の長尺の剣を一振りすれば、軽く二、三体の屍を切り裂き、反対に持つ、兵士の身の丈近くある大盾を横に持ち上げて殴れば、それでまた二、三体の屍がボロ雑巾のように吹き飛んだ。
彼が前で敵を惹きつけているお陰で、後ろの兵士たちが戦う屍は少なくなっている。
「止めを刺さなくてもいい! 足を切って機動力を落とせ!」
戦いながら檄を飛ばし、ゼノンは味方の士気を維持し続けた。
隊の後方、ライフル兵たちは副官のマルティンが指揮した。
塊となって前進する隊の中でライフル兵二十人が一列になって並んでいる。
「撃て! できるだけ敵の発光部を狙え!」
背後のマルティンの合図で一斉に連続射撃する。屍たちの体が次々と吹き飛んだ。
「よし、後退!」
連射を終えると、二十人は一斉に背後に駆け出す。駆けて行く先に既に別の二十人がまた列を作っている。その隙間をすり抜けると、構えている二十人が一斉に発砲する。また、後退する。
隊列を三列に分けてこれを繰り返す。残りの人数は前方を向いていて、矢じり型の端に加わり、流れくる突撃兵の討ち漏らしを処理している。
「また負傷者が……!」
中列、十人の治癒士部隊の一人の女兵士が前方を指差す。突撃兵の一人が倒れているのが見える。
「ここで治療はできないわ。運んで!」
アイリスが指示すると、その女兵士は手に持っていたロッドを倒れた兵士に向け、反重力魔法を使い、兵士を持ち上げた。治癒士隊は既に数人の負傷兵を浮遊させている。
「もうすぐ塔だぞ! 全員、隊列を崩すな!」
塔の下には、高い塀があったが、肝心の鉄門が破壊され、開けっ広げになっていたために塀の囲いは機能していなかった。塔本体の根元に背の高い幅二、三メートルで両開きの分厚い防護扉があった。この塔の中ならば、さすがの屍たちも侵入はできない。
ゼノンは、入り口隣の壁面に埋め込まれたラピスラズリの前まで行く。ラピスラズリが鋭く光ってゼノンの顔をスキャンすると、重そうな扉がゆっくりと左右に開き始めた。兵士たちを中へと進入させていく。
「全員早く塔へ入れ!」
言いながら、ゼノンは向かって来る屍二体を渾身の力で切り裂いた。
「うぁっ! た、助けてくれ!」
叫び声が聞こえてくる。そちらを見ると、倒した屍と相打ちで足を怪我した突撃兵が数メートル先に倒れ込んでいた。その後ろに屍が武器を振りかぶっている。
「くそっ!」
ゼノンは地面を蹴って、駆け出すと同時に盾を持ち上げた。
屍の武器が振り下ろされる寸前に、ゼノンの盾が横から屍を吹き飛ばした。その屍がさらに向かって来ていた別の屍に当たり倒れる。
「た、隊長ぉ!」
泣きつくように倒れていた兵士が言う。
「早く立て! 塔へ入るんだ!」
ゼノンは既にその後に飛びかかってきた屍二体を切り裂いていた。
怪我をした突撃兵は、剣を拾ってなんとか立ち上がり、足を引きずりながら入り口へと入った。ぎりぎりまで入り口を防御していたライフル兵も一緒に塔へと入る。
ゼノンは部隊全員が入ったことを素早く確認すると、自分も塔に滑り込み、
「閉めろ!」
と大声で叫んだ。合図すると、防護扉がまたゆっくりと閉まり始める。
閉まるまでにも屍が何体も流れ込んでくる。
扉が閉まってからもしばらく戦闘が続いた。
ゼノンは最後の屍を、発光部のある脳天から剣で真っ二つにした。
戦闘が終わり、治安軍兵士たちは全員、呼吸を荒くしていた。床に転がり込んでいる者もいた。
治癒士隊は背後で既に治癒魔法を使い、運んでいた負傷者の手当てを始めている。




