20.光の消えたアクアリウム(6)
「ローリス、ちょっと下がってて」
言うと、アマルティアはエリアの上に両手をかざし、目を閉じた。
エリアの身体を包むように水が現出した。
ローリスは目を疑った。水の中でエリアの身体に開いた大きな傷が、みるみる塞がっていく。
アマルティアはゆっくりと目を開くと、水は崩れて路上に広がった。
エリアの瞼がぴくりと反応して、ゆっくりと開いた。
「あ、あれ…? あたし、なんで身体が濡れてるの?」
状況が飲み込めないエリアは、ぼんやりと二人を見つめ返す。
「ばか! お前今、死にかけたんだぞ!」
ローリスは気がつくと、エリアの身体を抱き寄せていた。
「えっ!? あ、あの……」
うわずった声をあげて、顔を赤くしたエリアは身体をこわばらせる。
「おい! お前たち、そこで何をしている!」
突然、聞き覚えのある声がした。三人の背後から突如、白い光が照りつける。
照明魔法の白い光が当たりを眩く照らしている。そこに軍団が立っているが、逆光となってシルエットとしてしか認識できない。
一人の大柄の男が進み出る。
やがて、ゼノンの驚いた顔が見えた。
「エリア、ローリス!? それに居候の少女まで……。お前たち、何故ここに……?」
ゼノンは周囲を改めて見回す。
「一体、何があった?」
動かない死霊術の屍が、通りに少なくとも百は横たわっている。突飛な状況に、ゼノンは状況が飲み込めずに居ると、鋭く呼ぶ声がした。
「ゼノン隊長!」
副長のマルティンが、通りの脇を指差している。
騒ぎを聞きつけた屍たちが大挙して押し寄せてきた。既に隊の端では魔導ライフルの発砲音が聞こえている。
「話は、後か」
ゼノンの目つきが変わり、腰の鞘に収まっている長尺の剣と、人一人ほどの大きさの大盾を背中から取る。
「ローリス、エリアとその少女を隊の中央へ連れて行け!」
ゼノンは言いながら戦闘が始まった場所に駆けて行く。
ローリスは言われた通り、二人を、部隊の中心へと連れていった。
中心には十名ほどの女兵士が居た。兵士と言っても彼女たちは治癒士で、がっちりと鎧で固めた周りの兵士とは違い、魔力増強効果のあるロッドを手にし、ローブに身を包んでいる。
「治療は必要? ローリス」
「平気だよ、アイリス姐」
一人の女兵士にローリスは笑顔を返す。
アイリスは中々手の空くことが少ないゼノンに代わり、十五で治安軍に入隊し、右も左もわからないローリスの世話を焼いてくれた人だ。ローリスが入隊した時にはいち治癒士でしかなかったが、若干二十二歳の彼女は、治癒士たちのリーダーを務めている。
部隊の周囲では、激しい戦闘が始まっていた。四方八方から湧き出るように現れる屍が次々と隊に向かって来ている。




