17.光の消えたアクアリウム(3)
三人は薄暗い街の中を行く。人々の溢れていた場所だろうが、ところどころに黒々とした暗い穴が空いていたり、窓が割れていたりして、事件の凄惨さが伺えた。
「おい……!」
ローリスが小声で言うと、背後を振り返った。
小声で話すのは、知能の低い屍は音に反応して寄ってくる性質を知っているからである。
そして、二人に声をかけたのは、先に明かりが見えたからだ。
細い道の先に開けた場所があり、そこに光が揺らめいている。
それは、壁に点いたひとえの炎だった。
開けた場所はこの街の大通りだった。出てみると、その建物の壁をところどころ炎が焦がしている。
そして、通りにはまばらに、今度こそ本当の屍となった骸が転がっている。どれも真っ黒に焼け焦げていた。
「戦闘の跡か……」
ローリスは鼻をつまんで呟く。焦げ臭い匂いが漂っている。
「ほらね、言ったでしょ?」
「おい、油断すんなよ」
ローリスはエリアを小突く。
そのまま三人は薄暗く閑散とした大通りの歩道を進んだ。広い通りは中央に金属の道路が通っている。真っ直ぐ塔へと続いていて、先に小さく塔を囲う塀が見える。
「ねぇ、エリアはどうして塔の頂上へ行きたいの?」
武器を持たないアマルティアは二人の少し後ろをついて来ている。
塔の最上階にはアクアリウムの魔力の根源である魔法石、ラピスラズリがある。それも、普通に見るラピスラズリとは大きさが桁違いである。
なにしろ、一つの街の生活に必要な魔力を供給し、魔力照明で照らし、強力なシールドを発生させる根源だから、膨大な魔力が必要となる。巨大であっても不思議ではない。
「まぁ、お前の考えそうなことだよな」
ローリスはため息まじりに言った。好奇心旺盛なこの幼馴染は、どこでそれを聞いたのか、兄に連れて行ってくれとせがんだのだろう。
喧嘩になって当然だった。
「だ、だって! 人生に一回見れるかどうかなのよ。一度でいいから見てみたいと思わない?」
好奇心に駆られたエリアは無敵を誇る兄、ゼノン隊長であっても止められない。事実いつもゼノンはこの妹を捕まえられずに頭を抱えている。
「……気をつけろ!」
ローリスは口早に二人に警告する。
正面に死霊術に操られた屍が歩いている。ゆらゆら動く影は、服の下から覗く体も腐敗しており、離れた位置にも鼻腔の粘膜を刺すように悪臭が臭って来ていた。どこから持って来たのか、剣のような武器も握りしめている。
エリアは手にした魔導式ボウガンを上げて、発射口を静かにその屍に向けた。
「おい、見つかってないのにわざわざ交戦する必要ないだろ!」
と、言おうとしたのも束の間、凝集された魔力で形成された矢が、光の尾を引いて一閃飛んでいく。
屍の頭に矢が命中し、首から上が吹き飛んだ。屍の手にしていた剣がカラカラと高い音を立てて、床に落ちる。
「ねぇ、ローリス! 命中したわよ!」
エリアは顔を輝かせてこちらを見る。嬉しさに小躍りしそうだ。
「わかったわかった」
ローリスは気のない賛辞を送る。
「次、来るぞ」
ローリスは槍を構えた。
戦闘の音に惹きつけられたのか、また二体の屍が現れて一直線にこちらへ向かって来る。




