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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第1章
17/79

16.光の消えたアクアリウム(2)

 アクアリウム内は薄暗かった。いつも内部を明るく照らしている街の賑やかな明かりも全て消えている。周囲のアクアリウムが放つ強い光がうっすらとここまで届いてはいるが、それでも足元が見えないくらいには暗い。細かい通りに入ってしまえば真っ暗闇になるだろう。


 暗さのおかげもあって、中央の塔の壁を一定の周期で走っていく魔力の青白い光が遠目からでもはっきりと見えた。

 が、それが返って不気味にも感じられる。


「多分、兄さんたちが目指すのは中央塔の頂上だから、今はきっと塔付近に居るわ」


 エリアはマンダの後部にまわり、収納スペースを開くと言った。そこに何か入っているらしい。


「その辺は死霊術の屍たちがたくさん居るかもしれないけど、この辺りからなら治安軍が一掃して通った後だし、大丈夫なはずよ」


 彼女は取り出したものを手元でゴソゴソと組み立てている。


「これで……よし」

「魔導式ボウガンかよ。そんな物騒なモノどこで手に入れたんだ……」


 ローリスは驚いた顔をする。普通、軍隊などで使用するものだ。


「友達から試作品をちょっと借りたの」

「お前って顔が広いよな……」

 

 呆れと感心が入り混じったような顔でローリスは言う。

 エリアは魔導式ボウガンと呼ばれる武器を肩にかける。


 魔導式ボウガンは張力を利用して矢を飛ばすのではなく、生体から発される魔力を吸収して増幅し、魔力の矢を飛ばす武器である。弦はなく、メカニックな見た目の台座と湾曲したリム部分だけがある。この部位で、魔力の増幅と魔力矢の成形が行われる。矢の成形にやや時間はかかるが、威力は高い。


「そんな武器だけで簡単に行けるほど甘くないぞ。この死霊術の件で、兵士でさえ犠牲が出てんだから」


 ローリスはエリアを諭す。今からでも引き返した方が良いと思っていた。


「大体、どうしてそこまでして行くんだよ」

「……塔の上がどうなってるのか見てみたいの」


 エリアは俯きかげんで呟くように言った。


「塔の最上階に入る機会って普通の人は殆どないのでしょ? と、言うより、普通は一生入る機会が無いわ。こういう緊急事態の時以外は、ね」

「にしても、危なすぎるだろ」

「……嫌なら良いわよ。私一人でも行くから」


 しかし、一度好奇心を持ってしまったエリアは意地でも譲らない。そもそも、置いて帰るなんて選択肢をローリスが取れないこともわかっているだろう。


「あー、もう! わかったよ。これだからお前ってやつは……」


 ローリスは手を前に突き出すと、暗闇の中に光が現れ、槍の形を成した。光が消えると、手にはいつもローリスが軍で使用している槍が現れていた。


 ローリスの愛用する槍の唯一と言える特徴は、召喚術が施されていることである。ローリスのラピスラズリを座標とし、離れた場所であっても手元に武器を呼び寄せることができる。


 鎧に対する耐魔加工と同じように、武器に対しても魔法加工を施すことができる。それにより、武器を強化することができるが、鎧と同じく高い加工技術が必要なため高価になりやすい。


「えへへ、さすがあたしの相棒」

「勝手に相棒にすんな。いっつも貧乏くじを引く役なんて御免だぞ」


 ローリスはボヤきながら背後のアマルティアを見る。


「あんたは残るか? ビークルの中の方が安全だし」

「私も、行く」

「さっすが、そう来なくちゃね」


 エリアが嬉しそうにぱちぱちと手を叩く。


「いや、さすがに二人を守りながら戦うのは……」

「あたしもこれで戦うし」


 エリアは例の魔導式ボウガンを顔の前に掲げる。


「それにさっきも言ったけど、そもそも戦闘は殆どないよ。あの筋肉バカが通過した後だと思うし」

 皮肉混じりに言った。

 ゼノン隊長のことだ。

 

彼は並いる兵士とは格が違う。ローリスは身近な存在だったこともあって、彼に鍛えられたからよく知っている。


 抜きん出た膂力と体格を活かし、長尺の剣と大盾を手に持ち戦う彼は、近接戦闘に限って言うなら、兵士たちが束になってかかっても敵わない。だからこそ、兵士たちは彼を頼る。


「まぁ、確かに、こういう時の隊長は頼りになるからなぁ」


 そう考えると、ローリスも心のどこかで大丈夫な気がしてきた。

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