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Story From The Lethe  作者: 鳴セ カイ響
第1章
10/79

9.エリア



 ローリスは窓から差し込む魔力照明の光で目を覚ました。

 昨日、頭を撫でていたはずのニコラが居た空間は、ぽっかりと空いている。



 頭に寝癖を付けたまま、ローリスが階下へと降りていくと、ニコラがちょうど朝食を食卓に並べようとエプロンを外したところだった。



「おはよう、お兄ちゃん」

 ニコラの顔に昨日の夜のような幼さはない。



「私、もう行かなきゃ」

「ああ、気をつけてな」



 ローリスはあくびまじりに手を振ってニコラを見送ると、朝食を摂り、身だしなみを整えた。今日は非番なので、胸元が編み上げになったリネンのシャツだけを頭から被る。



 小一時間ほど経つだろうか。

 静かな家の中では、時計の秒針の時を刻む音が、やけに大きい。

 しばらくゆっくりとしていたローリスは、静かになった拍子にそんなことを思った。



(そういえば、下りてこないな)


 アマルティアのことである。もう十時間以上は眠っている。

 ローリスは二階へと上がり、そっと彼女の眠っている部屋のドアを小さく開けた。

 様子を伺うと、まだ深い寝息が聞こえてくる。彼女のくるまった毛布が、ゆっくりと上下している。



 階下に戻ると、ある音に気がついた。

 扉を軽く叩く、コンコンという音。



 ローリスはその音を聞いて苦い顔をすると、椅子に静かに座って物音を立てないようにした。

 その後も何度か同じようにコンコンと音がしていたが、やがて止んだ。

 しばらく息を殺していたローリスは、ほっとため息を吐いた。



 瞬間、天井にある通気孔のスリットが床にけたたましい音を立てて落ちた。



「のわっ!」

 ローリスは驚いて体が飛び上がりそうになる。



「なんだ、やっぱり居るじゃない」

 聞き馴染んだ声が聞こえてくる。



 呆然と天井を見上げると、四角に開いた通気孔の中から少女の顔がこちらを覗いていた。

 幼馴染のエリアである。



 ゼノン隊長の十歳離れた妹であり、ローリスとは兄のゼノンと共に三年前まで一つ屋根の下で一緒に暮らしていた。 



 エリアは通気孔内で器用に向きを反対にして通気孔の端にぶら下がると、床へに飛び降りた。



「お前、その入り方やめろ! 不法侵入だぞ、不法侵入!」



 ローリスは胸に手を当てたまま言う。まだ心臓がうるさく鼓動している。

 たまにこちらがドアを開けないと、こうして侵入してくるのだが、毎度ローリスの心臓に負担がかかっている。



「なら、開けなさいよ」

 エリアはむっとした顔で言い返す。この幼馴染は悪びれる様子もない。



 犯罪を取り締まる治安軍の兵士であるローリスは、即刻この幼馴染を現行犯逮捕できる。

 が、世話になった家の娘なので出来るはずもなかった。



 エリアは通気孔でついた埃を落として、服の皺を伸ばす。



「家の中でやるな!」

 ローリスは咳き混じりに言う。



「あ、ごめんごめん!」

 エリアはようやく悪びれながら、頭の上の大きなリボンの皺を丁寧に伸ばした。




 動きやすそうな丈の短い服装に似つかわしくないこのリボンは、いつかローリスが、彼女に贈ったものだ。



 後生大事に持っていてくれるのはどこか健気で可愛いのだが、それを打ち消すほどのトラブルメーカーでもある。彼女の行くところ、必ず騒ぎが起きる。



 二人が話していると、階段の方から声がした。



「……ローリス、どうしたの?」

 アマルティアがあくびまじりに目を擦りながら、階段の半ばあたりでこちらを見下ろしていた。



「あ、悪い。起こしちまったか」

 ローリスはエリアに向き直った。


「お前のせいで……」

 と言いかけた言葉が、彼女の顔を見て止まった。



 エリアは階段の方を、まるで幽霊でも見るかのように青い顔をして見ていた。

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