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4 セニアとの出会い

父さんの頭部があったという路地裏はもう、警察の現場検証も終わったのか人一人おらず静かなものだった。血痕なんかあったら少し怖いな、と思ったけど、そんなもの一切残されておらず、殺人現場からまた薄汚い普通の路地裏に戻っていたようだった。しかし、まだ昼間だというのにここには太陽の光も届きにくく、なんだか空気もジメジメしていて、事件の痕跡が無かったとしても決して居心地がいい場所ではなかった。ましてや僕みたいな小学生は本当は来るべきではない場所だろう。ここまで来る間、ホテルや怪しい店の前に佇む厳ついおじさんや派手なお姉さんにえらく凝視された。父さんは、こんな寂しい場所で殺されたのか。もしくは別の場所で殺されてここに放置されたんだろう。再び悔しい気持ちが込み上げてくる。

 いや、今これ以上考えるのはやめよう。感情を爆発させるのは後だ。僕がこの繁華街に来ているのは、道中沢山の人に見られている。保健の先生も僕のことを担任や母さんに報告するかもしれない。ここを僕が調査できる時間は限られている。早く手がかりを見つけなければ。キーワードは「トウモロコシのひげ」だ。とにかく思いついたことをメモに書こう。僕は込み上げてくる感情をぶつけるように紙に書き殴る。


・父さんは路地裏で殺されたのか? そうだとすると何故こんなところに来ていたのか?

・犯人は人間? 熊?(誰だろうと、絶対に罪を償わせる)

・顔の左半分以外の体は一体どこに?

・トウモロコシのひげを見つけたら、絶対に大人には分からない場所に隠す!(犯人の重要な手がかり)


 僕は路地裏の端から、道を穴が開くくらい見つめてその「トウモロコシのひげ」を探し始めた。しかし、「トウモロコシのひげ」とは一体……それがなんの証拠になるというのだろう。犯人の落とし物だとしたら、そいつは……トウモロコシ農家? う〜ん、我ながら酷い推理だな。

「何してるの?」

 突然、後ろから声をかけられ、僕は思わず声を上げメモ帳を落とした。

 ついに大人が見かねて僕をここから追い出そうとしているんだ。最初はそう思ったが、それにしては声が幼い。え、誰? 振り返ると、立っていたのは女の子。僕より背が小さいくらいの。

「あ、あ〜……。えーと……僕は」

 何故か僕は赤面し、上手く話せなくなってしまった。人見知りはしない方だったのに。でも、何故かその子の目をまともに見れなかった。

「あら、どうしたの」

「あ、いや別に。ごめんなさい」

「謝らなくてもいいわ。私が驚かせてしまったからね。でも、この辺りで小さい人間がいるのなんて珍しかったから、つい声をかけてしまったわ」

「あ、そうなの」

 君も対して僕と歳は変わらないと思うけど、と僕は思ったが、口に出す余裕はなかった。黙っている僕に、女の子は言う。

「あなたみたいな子があんまりここに居ない方がいいと思うわ。気をつけてね」

「え? 君は、平気なの」

「私? 私は平気よ。むしろここの方が都合がいいの」

「……? 君は、この辺の子なの? どこ小?」

「この辺の子、と言われればそうね。「この辺の子」だわ。でも学校には行ってないの」

「そ、そうなんだ」

 何か事情があるのは間違いなさそうだった。僕が思わず質問してしまった理由は、彼女が僕の周りの女子にはいない雰囲気をまとっていたからだ。漁師町の高館市は、昼休みでも男子と一緒に校庭を走り回っているような女子が大半だ。でもこの子は、絵本から出てきたような、柔らかくふんわりとした空気を纏っていた。服装や髪型も独特で、プードルのようにクルクルとした長い癖っ毛に、カチューシャ? のような飾りを付けて、リボンやレースのついた動きにくそうなスカートを履いていた。何となく、姉ちゃんが小さい頃遊んでいた「フランス人形」を思い出す風貌だった。何より彼女はびっくりするほど肌の色が白く、目も髪の色素も薄い。あまりにもこの港町には似つかわしくない格好の子で、地元の子だとしたらとっくに有名人になっていそうだと思い質問してみたのだが、はぐらかされたのか、要領を得ない答えが返ってきただけだった。

「それじゃあ、私は行くわ。さようなら」

「あ、待って」

 路地のさらに奥に行こうとする彼女を、思わず僕は引き止めた。

「そっちは行かない方がいいんじゃないかな」

「あら、どうして?」

「その様子だと知らないみたいだね。実は、最近ここで殺人事件があったんだよ。まさに今、僕たちが立っているこの路地で。まだ犯人は捕まっていないし、君みたいな女の子は余計に気をつけた方が……」

「それ、この前私が食べたおじさんのことかしら」

「え?」

 何やらおかしな単語が聞こえた気がしたが、もう先へ行こうとしている彼女に聞き返すのも憚られたので口をつぐんだ。

「私はセニア。あなたの名前は?」

「僕は、洋介」

「そう。ヨースケ、気をつけて帰ってね」

 セニアという少女は僕に背をむけ、路地の奥へと歩いていく。靡く髪は、くるくると少し癖のあるこげ茶色だった。何かに似ていると思った。多分それは、「トウモロコシのひげ」だ。


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