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第2話 無能の覚醒 将来は大賢者か!?

しげはるの復活という奇跡に興奮冷めやらぬまま、一行を乗せた馬車はタカハに帰着した。しげはる以外の三人は冒険者派遣会社にて採集したマンドラゴラを納品し、報酬を受け取った。しげはるは成体になっていないマンドラゴラ一体を握りしめ、これだけでも換金してくれませんか、と最後までごねていた。


ルークは初仕事を終えた心地よい疲労感を癒すため宿屋に戻るつもりだったが、ジャミルが彼らを誘う。


「これも縁だし、このメンバーでこれから飲みにいかないか?」

「酒は飲めないが、食事ならご一緒しよう」

「私は宿に戻って、森で汚れた服を着替えてきます」


ソフィアのローブの汚れの原因の大半はしげはるにあるのだが、彼に負い目を感じさせたくないのであろう、森で汚したとする彼女に、ルークは人柄の良さを感じとっていた。


「ぼ、ボクもいきます」


ソフィアが戻ってきた後、ジャミルが何度か利用したことがあるという賑やかで活気のある酒場に案内された。しげはるはルークの左側に座った。四人が囲んだテーブルの中央に偶蹄目モンスターの臓物と野菜を煮込んだ鍋が置かれる。滋養強壮に良いとされ、タカハの人々に古くより愛されている郷土料理だ。


ジャミルとソフィアはエールを頼んだ。メニューの読めないしげはるは、


「オレンジジュースはありますか?」

とルークに尋ねた。


「オレンジ?」

「えと、みかんジュースかもしれません」

「みかん?」

「みかんというのは、だいだい色の、甘酸っぱい柑橘類で、皮をむいて食べる…」

「レジオの実のことじゃないかしら」

「ああ、レジオジュースひとつ!」


気を利かせたルークがしげはるのために注文する。そんな三人のやりとりを、ジャミルはいつになく口角を下げた表情で見ていた。その目は視線の先のしげはるを訝しむようでもあり、探るようでもある。


ジャミルが二杯目のエールを頼むころ、ルークは今日一日考えていたことを口にした。

「なあ、この四人でパーティを組まないか?」


しばしの沈黙の後、ジャミルが口を開く。

「構わないぜ、パーティを組んだ方が報酬の高い依頼を受けられるからな」

「…次の入試シーズンで脱退するかもしれませんが、それでもよろしければ」

「しげはるはどうだ?」

「ぼ、ボクも賛成なのですが、きょ、今日みたいに皆さんの足を引っ張ってしまいそうで心配です…。魔物との戦闘経験も、あ、ありません」

「俺は前のパーティで魔物討伐は何度も経験あるし、サポートするぜ」

「戦闘経験がないのは私だって同じよ」

「頼むしげはる、俺はパーティを組んで剣士として魔物討伐に出たいんだ」

「わ、わかりました…」


満月の夜、ここに、新たな冒険者パーティが誕生した。


「パーティの報酬は、どんな時もきっちり四等分ということで良いか?」

ジャミルの提案に誰も異存はない。先ほど出されたばかりの二杯目のエールを一気に飲み干し、ジャミルが上機嫌に続ける。


「よし、今日から俺たちはパーティだ、今日の報酬の山分けといこう!これがしげはるの取り分だ!」


探索能力の高いジャミルは、今日の依頼でノルマの倍の三十体のマンドラゴラを採集し、なおかつ誰よりも早く馬車に戻っていた。彼が受け取った報酬も他の二人の倍である。その半分をしげはるに渡そうというのだ。人柄は良いがこういうところが飲み屋のツケをためる理由だろうな、とルークは思った。


「あ、ありがとうございます…」

「いいってことよ、それでしげはるは戦闘では何が得意なんだ?」

「じ、実は、何か取柄があるわけではありません」

「魔物討伐の依頼を受けるまで、先輩冒険者の俺が訓練してやろうか。格闘術、ナイフ術、弓術、簡単な魔法あたりだったら俺はいけるぜ、どれがいい?」

「ま、魔物と近くで戦うのは怖いし…。ま、魔法もやったことないので全然自信ありません。弓がいいです」


二人のやりとりにソフィアが割って入る。

「あら、魔法だったら私が教えてあげたのに」

「やっぱり魔法にします」


こうしてしげはるは、魔物討伐の依頼を受けるまでソフィアから魔法の訓練を受けることになった。


店を出た後、ジャミルとしげはるは他の二人から少し遅れて並んで歩いていた。ルークはソフィアと言葉を交わしながら、後ろの二人の会話にも耳を傾ける。


「…しげはる、おまえさん異世界からの転移者だろう?」

「ど、どうしてそれを…」

「王都にそういう者がいると聞いたことがある。彼らは果物や野菜の名前を間違えるという特徴があるそうだ」

「ああ…ジュース注文した時…」

「それに、転移者は常識では考えられない特殊な能力が備わっている者もいると聞く。一度死んだのに蘇るなんてあり得ないからな。不死身の特殊能力なんだろう?」

「そ、そうかも…」


ジャミルの洞察力にルークは関心していた。ソフィアはおしゃべりに夢中で後ろの二人の会話は耳に入っていないようだ。


「そ、そうか…。ボクは不死身だったのか…」


満月が、ニヤけた男の顔つきを不気味に照らしていた―。




翌朝、はやる気持ちを抑えられないルークは、さっそく冒険者派遣会社の掲示板の前に立っていた。しかし治安の良いクォーカフである、魔物討伐の依頼はほとんどない。あっても今のルークでは太刀打ちできそうにない凶悪な魔物討伐の依頼ばかりだ。落胆しつつも、しげはる達が魔法の訓練をしているという草原に向かった。二人の近くでルークは剣の素振りをする。


「いいですか、魔法は誰にも使えるものです。しげはるさんにもきっと使えます」

「ぼ、ボクにも…」

「ただ、誰もがすべての魔法を上手に使えるというわけではありません。その人に扱いやすい属性というものがあります」

「ぼ、ボクはどの属性が向いているでしょうか…」

「そうですね、属性診断をしてくれる占い師もいますが、お金もかかっちゃいますし、性格でその人の属性を把握する方法もありますよ」

「性格?」

「たとえばジャミルさんは空の魔法が多少使えるそうです。空の属性は、いつも冷静で自分の時間を大切にし、世話好きな方が多いですね。私は風です。細かいことに拘らず、自分の好きな生き方をしたい人が多いとのことです」

「ほ、他には、どんなものがありますか」

「水属性の人は愛情深く思いやりがあり人に優しく、地属性は、がんこ者で融通が効かないところがあるようです」

「じゃあボクは地属性ではないですね…」

「火属性はいつも前向きでエネルギーに満ち溢れた、情熱的な方が多いらしいです」

「じゃあボクは火ですね!」

「では火属性魔法の訓練をしましょう!」


傍らで二人のやりとりを聞いていたルークは、さすが細かいことに拘らない風属性のソフィアだと思った。しかし魔法に関しては門外漢のルークである。しげはるも出会って二日の自分たちに遠慮しているだけで、本当は火属性のような性格なのかもしれない。余計な口を挟むのはやめ、己の鍛錬に集中した。


「魔法とは大自然のエネルギーを借りて己の体内で増幅・変形させ、放出する技術です。ですので、魔法を使う環境も大事になってきます。私も無風の密室では風魔法を上手に発動できません」

「ははぁ」

「大地・空・風といったいつもそばにある自然のエネルギーと比べて、火は近くにないこともありますので、一人前になるには時間のかかる属性と言われています。がんばってくださいね」

「が、がんばります!」

「今日は火を準備していないので基本訓練をしましょう。あしたから松明を持ってきますね」

「はい!」


ソフィアは杖を地面に置き、左手で右腕を抑え、右腕をまっすぐ前に突き出す構えをとる。少しの間集中したかと思うと、ソフィアの右手のひらから突風が吹いた。


「このように魔法は杖がなくても発動できます」

「じゃあどうして杖を使うのですか」

「杖は自然界のエネルギーをコントロールしやすくする補助的な物です。なので、しばらくは杖なしで魔法の感覚を体で覚えて、それから持ちましょう。買うのも高いですしね」

「お、お金ないですからね…」

「では、自然界のエネルギーを体内に取り込み、発動できるように練習しましょう。この草原は開けて風が通りやすいので、しげはるさんと属性は違いますが風を意識してみてください」


しげはるはソフィアと同じ構えをとり、ハァッと声をだす。しかし何も起こらない。


「や、やっぱり詠唱とかあった方がいいんでしょうか…」

「エイショウ?なんですかそれ」

「か、風よ、鋭い刃となり荒れ狂え、ウインドカッター!みたいな」

「真面目にやってください」

「はい…」


二時間ほど訓練を続けていたが、一向にしげはるの手のひらから風が吹く気配はない。途中から疲れてきたのか、しげはるの右腕は下がってきていた。それなのにハァッの声が大きくなる。これまで以上に気合が入っているようだ。教えてくれるソフィアの方を向いているしげはるは、ローブ姿の彼女の足元に向かって風をだそうとしているようにも見える。しげはるの心の内を察したルークは、休憩する体で二人の訓練を傍で眺めた。心の底からしげはるを応援した。がんばれ、がんばれしげはる!― しかし彼の手からは、そよ風ほども吹くことはなかった。


それから五日ほど経った後、ルークは自分たちでも請け負うことができそうな魔物討伐の依頼を見つけた。さっそくパーティの皆に打診する。


「キタッキュ領のコラク城遺跡に、コボルト数体が住み着いたらしい。近隣の村で食料盗難等の被害がでているそうだ」

「ふむ、やはり魔物討伐となるとキタッキュ領か…」


クォーカフより北に位置するキタッキュ領は、魔物が多く治安も悪い。クォーカフはとても治安の良い都市だが、王都の人々から修羅の国と揶揄されることがある。しかしそれは大きな勘違いである。クォーカフ近くのキタッキュ領の魔物が暴れているだけなのだ。クォーカフ方面の凶悪な事件の知らせを聞いた王都の方々には、それがクォーカフで起きた事件かキタッキュ領で起きた事件なのかを正しく認識していただきたいと、ルークは日頃から思っている。


「こ、コボルトは強い魔物ですか」

「なあに、数匹程度なら俺たちでもなんとかなるだろう」


コボルトは人語を理解する地の精霊である。鉱山にある洞窟を住みかとすることが多い。人間よりも小さいがすばしっこく力もある。コボルト一匹に対して一般的な体格の成人男性一人では分が悪いが、二人ならなんとか勝てる魔物だ。人間種に友好的な個体も稀にいる。


「しげはる、魔法の調子はどうだ?」

「じ、実はまだ発動できなくて…才能ないのかな…」

「心配いらないですよ、魔法は最初は難しいですが、一度コツを掴めば上達速度もあがります。私もそうでした」

「心配はいらん、俺の剣術なら一対一の状況なら負けんだろう」

「心配するな、ポーション等の道具を余分に持ってくれるだけでも、パーティとしては助かるものだ」


人柄の良い三人に心配ないと励まされ、しげはるも魔物討伐に前向きになったようだ。早速コボルト討伐を請け負うことを冒険者派遣会社に伝え、しげはるに持ってもらう道具の買い物を済ませたあと、キタッキュ領へ向けて出立した。馬車でしげはるはまた乗り物酔いとなった。そのため、キタッキュ領で下車した後、しげはるの回復を待ってからコラク城遺跡へと向かった。辺りはすでに薄暗くなりつつあった。


日も落ちた頃、ようやくコラク城遺跡そばの堀に到着した。遺跡なのでこんな時間に普段は誰もいないはずである。しかし遺跡の中ほどにかがり火の明かりがぼんやりと見える。何者かが住み着いているというのは本当のようだ。一行は緊張感を高めつつも、その明かりに向かって慎重に進んだ。


かがり火のところまであと少しのところで、しげはるが豪快なくしゃみをした。コラク城遺跡のまわりは木々が多く花粉も多い。


「なにものだ!」


パーティの前方から声がする。かがり火に照らされたその体は小さく、緑色をしている。-コボルトだ。四人はそれぞれ身構え、戦闘態勢をとる。前方のコボルトは一匹。作戦では奇襲をしかけるつもりだったが、しげはるのくしゃみで気づかれ、剣を手にされてしまった。一瞬の間を置いたあと、ルークがコボルトに向かって切りかかる!ジャミルは新手のコボルトがいないか周囲を警戒する!ソフィアはいつでも魔法を発動できるよう、集中力をさらに高める!しげはるは怯えきっている!!


ルークには、剣での戦いでは大抵の相手に負けない実力が確かにある。しかしそれはあくまで人間相手の話だ。自分の半分ほどの身長で速さもある魔物相手には、そうはいかなかった。道場や剣術大会で戦ってきたどの実力者よりも戦いにくい!


しばらくお互いの剣が当たった際の甲高い音が断続的に鳴り響いていた。しかしルークの自分を鼓舞するような、痛みを耐えるような悲鳴でその状況は変わる。素早い動きで懐に入ったコボルトから、ルークは腹部に一太刀をもらってしまっていた。


それを聞いて、周囲の警戒にあたっていたジャミルもナイフ片手にルークの加勢に入る。二対一ではコボルトも防戦一方だ。しかし今度はジャミルの叫びによって状況がまた一変する。身を潜めていたもう一匹のコボルトが後方よりジャミルの背中に矢を放ったのだ。その隙をついて、コボルトはジャミルの左足を斬る。


ソフィアが、弓を手にしたコボルトに向かって風の刃を放つ。緑色の血が飛び散るが、致命傷にはならないようだ。激高したコボルトは瞬く間にソフィアとの距離を詰め、彼女の両手を後ろに拘束する。


しげはるがくしゃみをしてからものの数分もしないうちに、ルークとジャミルは横たわり、ソフィアは身動きが取れなくなってしまった。剣を手にしたコボルトがしげはるに向かって言う。


「さて、あとはお前さん一人だが、どうするかね?お前さんとはあまり戦いたくない」

「お前だけでも逃げろしげはる!」

倒れたままのルークが叫んだ。


しげはるは俯いたまま、一人つぶやく。


「こ、こ、ここで逃げたら、ぼ、ボクは最初から最後まで足手まといのままだ…!ルークはこんなボクをパーティに誘ってくれた…。ソフィアさんは覚えの悪いボクにも親身に魔法を教えてくれた…。ジャミルさんは生活費に困っているボクに快くお金をくれた…。み、みんな本当に人柄が良いっ…。こ、ここで逃げたら、ぼ、ぼ、ボクは!一生後悔するッ!!」


しげはるが、左手で右腕を抑え、右腕をまっすぐ前に突き出す。ソフィアに教わっていた構えだ。コボルトたちがかがり火を灯していたのも、火の魔法の発動にあたって好条件となっていた。しげはるは、鋭い眼光で前方のコボルトを睨みつける。初めて見るしげはるの表情だ。


「こ、これまでに経験したことのない、体の内側が熱くなる感覚…、こ、これが魔法!?」

「そうよ、それが魔法よしげはる!放って!」

ソフィアが叫ぶ。


「いけぇしげはる!」

ジャミルの叫びがしげはるを後押しする。


「く、くらえぇっ!!」

剣を持つコボルトに右手のひらを向け、しげはるが魔法を放つ!爆風と轟音とともに、閃光が走る!


「ギィャアァァァァアァヤアアァァァァアアッッッ!!!」

しげはるの火の魔法を受けた者の、おそらく断末魔であろう雄たけびが、辺り一面にこだまする!!






爆風も収まり視界が開けてきたルークの目に、右腕が赤黒く焦げた、横たわるしげはるの姿が映った。


コボルトは無傷だった。


-------------------


事の顛末はこうだ。


しげはるはそもそも左利きである。パーティを結成したあの日、酒場でしげはるがルークの左側に座ったのも、食事中にお互いの腕が当たらないようにするしげはるなりの配慮であった。ソフィアがしげはるに魔法を教える際、彼女は右利きなので右手を前にだす構えを彼に教え、彼も何の疑問を抱くことなくそれに倣った。しかしやはり、魔法は利き手で出す方が良いのである。魔法をまだうまくコントロールできないしげはるは、右腕を抑えていた利き手の左手から火の魔法を出した。しげはるは自分の火の魔法を自分で食らったのだ。


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