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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
92/403

月塊、于吉とおおいに腕をくらべ、琴箭、太平要術を天に還すこと⑤


 琴箭は額にしわをよせて、ハーッと盛大にやった。


「呆れた。アンタまだそんなカッコでいるの? この大事に······」


 まったく。頼りにならないモフモフね。私までがこんなにぼろぼろだっていうのに······


 すこし恨みがましかっただろうか。じとりと白虎をにらむ。しかし、月塊白虎はなんの意見もあらわさず、ただ尻尾をぽてぽてとわずかに揺らすだけである。


「もういいっ」

 琴箭がむくれて顔をそらすと、白虎はゆるりと立ち上がった。のそのそと前進を開始する。


「ちょっと、置いてかないでよ。怒ったの? ねえ?」


 あわてて追いかける童女をまるで先導するように、白虎は歩を進める。なんとなくこちらの歩幅にあわせてくれているようで、琴箭の機嫌もすこしは晴れた。



 しばらくすると、山とはよべぬほどの小丘がみえてきた。そこを登りきったところで、ふたりは足を止める。


(ほこら)?」

 白虎にのせた手でやさしくその背をなでながら、琴箭はつぶやく。白虎はやはり何も言わず、するりとその手を抜けると、祠の隣へきて座り込んだ。


「······ずいぶんと古そうだけど、いったいどなたを(まつ)ってるの?」


 歩みよって琴箭はその、いつ建てられたかもわからないほど古い祠をしげしげと観察した。


 ほんとうに古い。あちこち朽ちているし、色あせて砂にもまぶれているので、もはや焦げ茶よりは灰色にちかい。

 こぢんまりとした屋根の下に観音開きの扉がついている。

 やっと琴箭の頭がまわり始めた。


「······ここなのね? ここに納めればいいんだ」


 ゆっくりとその扉を指でひらく。

 扉はなめらかに開いた。中はほとんど空だったが、その中央に、字が彫られた石がひとつ、うやうやしく置かれていた。


 琴箭の瞳はもはや癖で、そこに記された文字を読みとっていた。

 さらにその眼がまるく見開かれる。


「······老······子之······祠」





「ぬうううううゥンッ!」


 お互い跳躍し中空で激しく剣をまじえたふたりは、墜ちながら寸分もその動きを止めない。

 決して反撃なぞ許さぬ。于吉は護符刀で間断なくガンガンと月塊を打ち据える。攻撃は月の戟によってまったく通っていなものの、狙いはそこではなかった。


「······チ······ッ!」

押し込まれることで加速し、あっという間に地上が迫る。


「ふんッ!」


 気合一閃、最後の一撃が月塊をついに地へと叩き落とす。だがそれでは終わらなかった。于吉はそれでもさらに追撃を止めない。

 足下がメリメリと音をたてる。隙間なく繰り出される連打に地はひずみ、尋常ではないはやさで身体が沈み込んでいく。



「ぬェイイッ!」



 ズンッ!



 ひときわ大きな地鳴りがして、月塊の姿が忽然と消えた。


「······ハァ、ハァ······。どうじゃ! 事がすむまでそこで大人しくしとれい!」



誤字を修正いたしました。

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