月塊、于吉とおおいに腕をくらべ、琴箭、太平要術を天に還すこと⑤
琴箭は額にしわをよせて、ハーッと盛大にやった。
「呆れた。アンタまだそんなカッコでいるの? この大事に······」
まったく。頼りにならないモフモフね。私までがこんなにぼろぼろだっていうのに······
すこし恨みがましかっただろうか。じとりと白虎をにらむ。しかし、月塊白虎はなんの意見もあらわさず、ただ尻尾をぽてぽてとわずかに揺らすだけである。
「もういいっ」
琴箭がむくれて顔をそらすと、白虎はゆるりと立ち上がった。のそのそと前進を開始する。
「ちょっと、置いてかないでよ。怒ったの? ねえ?」
あわてて追いかける童女をまるで先導するように、白虎は歩を進める。なんとなくこちらの歩幅にあわせてくれているようで、琴箭の機嫌もすこしは晴れた。
しばらくすると、山とはよべぬほどの小丘がみえてきた。そこを登りきったところで、ふたりは足を止める。
「祠?」
白虎にのせた手でやさしくその背をなでながら、琴箭はつぶやく。白虎はやはり何も言わず、するりとその手を抜けると、祠の隣へきて座り込んだ。
「······ずいぶんと古そうだけど、いったいどなたを祀ってるの?」
歩みよって琴箭はその、いつ建てられたかもわからないほど古い祠をしげしげと観察した。
ほんとうに古い。あちこち朽ちているし、色あせて砂にもまぶれているので、もはや焦げ茶よりは灰色にちかい。
こぢんまりとした屋根の下に観音開きの扉がついている。
やっと琴箭の頭がまわり始めた。
「······ここなのね? ここに納めればいいんだ」
ゆっくりとその扉を指でひらく。
扉はなめらかに開いた。中はほとんど空だったが、その中央に、字が彫られた石がひとつ、うやうやしく置かれていた。
琴箭の瞳はもはや癖で、そこに記された文字を読みとっていた。
さらにその眼がまるく見開かれる。
「······老······子之······祠」
「ぬうううううゥンッ!」
お互い跳躍し中空で激しく剣をまじえたふたりは、墜ちながら寸分もその動きを止めない。
決して反撃なぞ許さぬ。于吉は護符刀で間断なくガンガンと月塊を打ち据える。攻撃は月の戟によってまったく通っていなものの、狙いはそこではなかった。
「······チ······ッ!」
押し込まれることで加速し、あっという間に地上が迫る。
「ふんッ!」
気合一閃、最後の一撃が月塊をついに地へと叩き落とす。だがそれでは終わらなかった。于吉はそれでもさらに追撃を止めない。
足下がメリメリと音をたてる。隙間なく繰り出される連打に地はひずみ、尋常ではないはやさで身体が沈み込んでいく。
「ぬェイイッ!」
ズンッ!
ひときわ大きな地鳴りがして、月塊の姿が忽然と消えた。
「······ハァ、ハァ······。どうじゃ! 事がすむまでそこで大人しくしとれい!」
誤字を修正いたしました。




