表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
88/403

月塊、于吉とおおいに腕をくらべ、琴箭、太平要術を天に還すこと


ちょつぴりだけ長いです。


「ええい、面倒くせえ!」


 月塊は歯噛みして、また音のする方へと拳を構える。

 さっきからくる者くる者すべてをうち砕いているが、于吉の泥人形・土獣たちにはキリがなかった。おまけに奴に食らわされた、なんだかよくわからない目くらましのせいで視界は霞むし、苛々(イライラ)はつのる一方である。


「!」

 霧を裂いて真後ろから巨大な手刀が大地をえぐる。いちはやく後転してその股下へと転がり込んだ月塊は、右足を一閃。天にむかって蹴り上げる。

 素が土だけに、硬さはともかく重さがある。が、そんなことはお構いなしとばかり突き上げた一蹴は、脳天まで地走りのような断裂をうみ、巨兵は崩壊して果てた。

 と、今度は死角から土獣が連携して喉笛に食らいつく。

 土人形のくせに牙と爪だけはしっかり硬い。さすがに急所を食い破るとまではいかぬが、それでも文字通り、岩の堅さをもつ月の肌にほんのささいな傷をつける。ただそれだけで充分だった。


「! 甘噛みが······ウザってぇってんだよ!」


 首根っこをひっつかんで片手ごとに一頭ずつ力づくでひっ()がすと、木にむかって投げつける。凄まじい勢いであるがためにさすがの獣も受け身さえとれず、木に打ちつけられ、バラバラと崩れた。


 チッ──


 身体をめぐるわずかな、かゆみにもにた感覚。それが全身の動きをさらに縛るものだと彼が気づくのに、そう時はいらなかった。


「仙境の毒ってやつか······念入りなこったぜ。

 あー、にしてもなかなか減らねーっ」


 仙人を天にして明だとすれば、妖は地、暗。

 おなじよくわからないモノ同士であっても、ふたつはあまりに対極の、方士風にいえば相克(そうこく)の存在といえる。


 こんなことしてる場合じゃねえんだ。あの変態若作り野郎はとっくに太賢良師の所に行っちまってる。そうなりゃ琴箭とだって面をあわせることになるわけで。


「野郎······これ以上俺の荷物に傷つけやがってみろ、髭を全部ひっこ抜くくらいじゃ済まさねえぞ!」


とは強がってみたものの、ドチャリドチャリと響く足音に、さしもの月塊も思案せざるを得なかった。



 せめて野郎が最初にまいた元の場所がわかればな······だが眼はあいかわらずぼやけるし、鼻も砕きまくった泥人形の残り香のせいで、あちこち土の匂いだらけだ。妖の術なら気配で悟るが、そもそも人間にこんなことが出来るなんざ、考えたこともねえ。ホントに方士なのか、あの野郎······!


 ヌオッ。霧をわって、巨兵がいち時に三体面前に顔をつきだす。



「──ヘッ! ま、てめぇらがハナっからそういう態度なら、こっちも悩まないですむんだ! どうせならもっと一辺にかかってきやがれッ!」



 中腰をあげ、ついで気炎まであげんとしたその刹那、目の前を影が疾走(はし)った。



《ゴォォン······》



 痛覚なぞあるようにはみえないが、少なくとも巨兵は怯んだようだった。

 影はしたっと地に降りると、口にくわえた巨兵の腕を、見よ! とばかりにぶん回した。


「虎? お前、いつものあの虎公か! まさか加勢してくれるってのか!」


そうだとばかり、虎は猛々しく咆哮をあげる。

「お前······面白ぇ、やるか!」


 おもいもせぬ加勢に月塊の士気も上がる。が、いくら頭数が増えたところで戦況にゆらぎはない。

 げんに虎の身体にはあちこち泥がついており、ここまで来るのに何体か相手どってきたらしい。手傷もおっているようだ。

 傍らで鼻に(しわ)を寄せる虎に、月塊は語りかける。


「おい。このまま合力と洒落込みたいが、あんま時もかけていらんねぇ。お前、以前あの爺──覚えてっか? 一緒に追っ払ったあの爺だ。奴の臭い、憶えてねぇかよ? いっちょ一番臭ぇところを嗅ぎとって吠えてみせろ」


 ウガル。まるで呑みこんだ、とばかり虎は唸る。


 よくよく思うと、こいつもヘンな虎だ。まるでこっちの言葉を理解している──妖のなかには獣と通じあえるモンもいるが俺には無理──かのような振る舞いをみせやがる。


「ま、何でもいいさ。じゃあ──行けッ!」


 辺りを威圧する咆哮一声。


 虎は地を蹴って駆けだす。やらじとせまる巨兵の腕を、右へ左へと躱す、躱す。ならばと前をふさぐ土獣はまとめて蹴散らされ、爪を立てることさえ叶わない。

 その先、巨兵どもが一団となりあたかも壁のごとく、己が身をもって立ちふさがる。


 すわ道を阻まれたか、と思われた虎は脚に力を溜めると、瞬迅跳躍。

 肩を駆けのぼり頭を踏みつけ、高みへと身を踊らせた。

 その勢いは、後詰に待ちかまえた巨兵の指の間もすり抜ける。

 それでも最後の意地か。倒れ込む巨兵の頭を同じく駆け上った土獣数匹の牙が、なんとかそを引きずり下ろさんと尾に迫る。

 その牙がわずか、その毛先にかかる────かに思われたが、するりとその艶にまけたようにすべって落ちた。


 虎は華麗に着地を決めると、地面に鼻をよせひと嗅ぎすると、精一杯の咆哮を轟かせる。



「でかしたぁぁぁッ!」



月塊は無意識に印をきると、「フンッ!」と地面を踏みしめる。


「ヌ······ォォォオオオオッ!」


 ズズズ。地鳴りがどどろき、地の底でなにか巨大な物が蠢く気配が増してゆく。



「逃げてろッ、虎ァアッ! アアアアアリャアアアアア────ッッッ!」

 ゴシンッッ!



 地を割り、龍の背鱗の如き岩がバッと突き出し、真一文字に走る。身の毛をよだてて飛び退いた虎の足元から、黒鉄の龍のようなものが、大口をガバと開いた恰好のまま徐々に迫り上がる。


「おさらばしなッ!」


 怒号一声。

 長大な器物の尾を掴んでひき出した月塊は、それを肩から背負うと力任せに投げとばした。



 泥人形の源であった于吉の方力の染みついた土は、それをまるごと収めた黒光りする龍型の器物ごと、はるか上空へと放り投げられる。

 そのまま養春山の結界を突き破り、地鳴りとともに大地へ深々とめり込んだ。




後日。

器物のおちた地に畑をひらいた人曰く、たいへんよく作物がとれたそうな。

が、夕方、誰もいなくなる頃。ときおり妙なものがもぐずり出してきては、夜な夜なヘンな舞を舞っているそうな。


一部表現を修正しました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ