表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
87/403

太賢良師去りて、後事を託すこと③


元のペースに······などと書きましたが、そろそろラストスパートということもあり、勝手ながら一回二部投稿は継続させてくださいませ。


 琴箭は駆けた。

 みずからの許すかぎりの全力で。途中で息が詰まりたち止まっても、すぐに先へと踏みだした。


 私が気を失ってどれくらいたったのか。すくなくとも、小賢さんはかなり先に山を降りているはずだ。どんなに急いだとしても彼にその気があれば、間に合わないかもしれない。


 それにしても。琴箭は段差をひとつ飛び下りながら考えた。


 なぜ良師様は、今際の際にまであの書の心配をなさったのだろう。あれはみる限り、まごうことなく医書だ。その内容はむしろ、共有のものとした方が利がある。だいたい本人も積極的に見せようとしていたではないか。


 ······あの書には私が読みきれなかった秘密がある?



 そうこうするうち、庵にまで帰り着いた。

 離へと一直線に向かったが、その扉に手をかけた所で、琴箭は一瞬、躊躇(ちゅうちょ)した。


 もしかすると小賢さんがまだいて、この中で書をあさっているかもしれない······


 それでも自分は太賢良師と約束をかわしたのだ。琴箭は勇を奮うと、威勢よく扉をあけた。



 幸い、中には誰もいなかった。うっすら暗いなか、舞いあがったわずかの(ほこり)が、横合いの窓からななめにさし込む光に踊ったのみである。


 その光景がなんだか異様に寂しく感じて琴箭は胸につかえたが、いまは感傷に浸っていいときではない。

 すぐさま書棚により、書を探す。細かく仕切られた棚にはかなりの数が積まれてあったが、こちらは一度この目でみている。どれが太平要術だと首をひねる時をさっ引けるのは大きかろう。

 ざっと見、棚には竹帛や木簡の類いばかり。あれはすべて紙を巻いた書であるので、虫や雨漏りなどの害をくう危険がある。むき出しで置かれるとは考えにくい。


 琴箭は父ならどうするかと考え、すぐ床に積まれた木箱に見当をつける。一番下の、なんだかいい匂いのする箱がそれだと、五感が告げた。

 上にのった箱を下ろし、琴箭はゴパッと蓋を開けた。



 ────書はそこにあった。ちゃんと十巻、欠けることなく並んでいる。琴箭は一緒に仕舞われていた布に全部まとめてひっくるむと、首にかけて離をとび出した。


 でもどこへ? どこへ行けばこの書を天へと還すことが出来るのか。いちばん大事なことを聴かなかったことが悔やまれる。


「──とにかくあの男から離れればいいのよ!」


 なんとかなる! 逃げながらでも考えてやる!

 琴箭は勇んで山を下っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ