于吉再来し、小賢、墜ちること
「······ここは」
小賢はおもい瞼をあけ、目玉だけをギョロギョロ動かした。
というのも、そのほかの身体がまったく動かせなかったからだ。動かしたつもりであっても、結果、目玉だけしか言うことを聞いてくれなかった。
「気づいたか······」
姿はみえない。きっと脇に座しているのだろう、太賢良師の声がした。
「俺は、どうして······」
耳になじんだ滝の音をききながら、小賢は煤だらけの天井をみあげた。
「三日前か、傷を負って帰り着いた途端、気を失ったそうだ。儂が帰るまで琴箭と妖が看てくれていた。礼をいうのだな」
そうですか。呟いておし黙る。
「······何があった?」
良師は、なにかゴリゴリと薬をすりながら、ボソリと訊ねる。
小賢はぎりりと奥歯を噛みしめたが、その憤懣を独りで抱える気はなかった。ありのままを話して聞かせる。
「そうか······」
良師はそれだけを呟き、ごとりと摺石をおいた。
「災難だったな。哀れであるが、お主は力を尽くした」
「······災難だった、ですと?」
良師の言葉の無慈悲さに、小賢は怒りの納め先を失った。
「すべては災難であったと、それだけでお済ませになるのですか、師匠は······! それを見捨てられた民たちに言えますか!」
ややおいて、良師はかすかな嘆息とともに応えた。いくぶんか声に硬さがのっている。
「······小賢よ。お主もよく解っていよう。病が治るか否か、それは詰まるところ、我らが成せることではない。すべては天命だ」
天命。ここ幾日かで二度もきいた。
太賢良師は、人の生き死には天命と断じ、方士・于吉は俺が仙人になれぬと決めつけた。
天命。
それがなぜわかる。一部の特別なものにしかわからないものであるのなら、それはないも同じ。また、それを知れる者であるのなら、なぜそれで人々を導こうとしないのだ。
師匠、アンタだって見てきただろうに。足掻いて足掻いて、末に亡くなっていった者たちを。知っていれば、なにがしかの手はあったかも知れぬと、アンタだって思わなかった筈はなかろう。
「師匠は、仙の術を、使えるのですか」
「······」
「ならばなぜ、それを活かそうとはなさらないのです」




