月塊、琴箭に貢ぎ物にされること③
ニッコリと、それはそれはいい笑顔で、琴箭は猫なで声をだした。
「アンタさ、このまま件の妖ってことで捕まってくんない?」
なにをいってるんだ、こいつは。そんなふうに彼女を見上げていた月塊だったが、脳に言葉がとどいたとたん、みるみる顔を真っ赤にして当然の台詞を吐いた。
「ふざけんな!」
「そんな怒んないでよ。いい? これは取り引きなの。提案してるのよ?」
「はぁ!?」
「まあ聞いて?」琴箭は相手をなだめるように手をひらひらさせる。
「アンタがその妖じゃないってこと、それは信じるわ。仙人になるとか、そういうのはよくわかんないけど、その妖を退治したいってのもわかった。だったらさ、それってつまり、目的は私と一緒じゃない?」
体をおこすと、彼女の父がよくそうやるように、くんだ手を腰のうしろにまわし、トコトコと床を歩く。
「ここは協力したほうが、よりはやく目的が達成できるとおもうの。どう?」
月塊は鼻で嗤う。
「···はっ。相手は妖だぜ。人間なんかがなんの役にたつもんか」
「んー? でもぉ。アンタがそもそもこの里に的をしぼったのも、その妖を直接抑えるためでしょ? でもそれって、ほとんど手がかりがないっていってるようなもんよね」
グッ。妖が喉で声をつまらせたのがわかる。
「······なら、お前にはそれがあるってのか。じゃあなぜそれに頼らない」
琴箭はおもわず吹き出した。
「そりゃそうよ。私にとっては、まずはこの里を守ることが先決だもん。それにアンタの言葉どおり、アンタみたく強くもない。どうしようもないじゃないの」
「······」
「···でも私たちが組めば、こっちから仕掛けることができる──かもね。どう? 聴く気になった?」
しばらく沈黙をきめこんだ後、盛大に溜め息をついてから月塊は答えた。
「······フン。まあ? 聞くだけは聞いてやるか。その前にこの木札はずせ。効くか、こんなモン」
翌日。
牛によって引きずられた簡素なソリのうえに、簀巻きのうえ猿ぐつわまで噛まされ、より情けなくなった月塊の姿があった。
「ムゴーッ! ムガ─!」
彼の言わんとするところはかろやかに無視し、琴箭たちが目指すは、郷のお役所。治安官様のおわすところだ。