小賢、世の理に憤ること
だがそれで、小賢の悩みが消えることはなかった。
彼は頼みとしていたものに足元をすくわれたような気がして、悄然となり、また憤った。
なんだこれは! こんなものが天に替わって道をつける、なんの手足にもなるものか!
ほんの微かな裏切りから、彼はまえにも増して、焦りと失望につきまとわれることになった。
悪しき流れというものは、そんな時を狙い撃ったようにやってくるものだ。
彼の意識を変える決定的な事件がおこったのは、ちょうどそんな頃だった。
その日、小賢は多忙を極めていた。
多年良師も恐れていた流疫が発生したのだ。
規模はまだごく小さいものの、その元が比較的人のおおい地であったことで厄介さがました。
良師と小賢は手分けをし、なんとか是を鎮火せんとした。
治療所として提供された屋敷には病人が溢れかえり、いまだ寝込むほどの重篤なものは防げてはいるが、とにかく数がいる。だれがみても、小賢ひとりの手に余ることは明らかだった。
そんななか遮二無二なって事に当たっていると、太賢良師の護法をまっていた列の後方がにわかに騒がしくなり、どかどかと鎧をまとった兵が乱入してきた。
「なんだなんだ、お主たちは! なぜ治療の邪魔をする!」
小賢が怒って声を荒げると、兵の中央にいた官服の中年男が、袖で抑えていた口元をあけて問う。
「お前が太賢良師か。妖しげな術を用いて人心を惑わし、病を治すとふれ回っているそうだな」
「だったらなんだ! いま忙しい、みて判らんか!」
男はもったいぶった態度を崩さず、それで顔を怒りによってひきつらせながらじっと小賢を睨んでいたが、突如恫喝した。
「この痴れ者が! 引き出せ!」
はっ、と兵士どもは小賢の小脇をかかえると、力ずくでこれを外へ引きずり出す。
「なにをなさるだ! 太賢良師をどこに連れていきなさる!」
「ええい、放せ! 県令の命である!」
診てもらっていた子供の父親が、おもわず兵に取りすがるが、引率らしき男に足蹴にされる。
小賢はそのままズルズルとひきずられ、どういう訳か車に載せられると、一団は県城へと馬を飛ばした。
隣に座った男を睨みつけ、小賢はいった。
「覚えていなされ。私を連れ出したことを後悔するぞ」
男は目もあわせず、前を向いたまま鼻で嗤う。
「たかが方士風情が······疫民の処置なら我らとて心得ておるわ。口を閉じていろ、下衆が」
県城につくと、小賢はただちに県令のもとへ連行された。
広間で包みひとつを抱えて立ち尽くしていると、奥から立派な身なりをした男が供をつれて入ってきた。
おそらく県令らしきその男はこちらに気づくと、だっと駆けよってき、いきなり手をとって破顔した。
「まっておりましたぞ、太賢良師殿! やっとお目にかかれました」
意外な反応に小賢は面食らい、それでもいまだおさまらぬ怒りを滲ませて返答した。
「これはどういう用向きでありますか。治療中に引き立てるとは」
「手荒になってしまって申し訳ない。じつは貴殿におすがりしたい病人がおりまして」




