方士・于吉、謀ること④
あろうことか、小賢に「師匠」と呼ばれた老人は、よっこらせとばかり腰を上げると、ゆっくりと歩みよる。そのながくのびた眉のおくから、太賢良師によく似た眼光をはなつ瞳を、するどく彼にむけた。
「精進はしておるようじゃの」
小賢は無言ですこし頭をさげてみせる。
「······なんの用ですか。ひきうければ干渉はしないのではなかったか」
「ホッホッホ。干渉なんかしゃあせん。これは催促よ」
ぴくり、と小賢の厳しくなった眉もうごく。
「たしかに、貴方には恩がある。くすぶっていた俺に道をしめし、太賢良師様の存在をおしえくれた。だがどうするかは俺が決めてよいと仰ったはずだ」
ホッホと、于吉は好々爺たる様をくずさず、先が紫をおびた長い髭をしごいて笑った。
「言ったともさ。だがこれは天意、おんしがどう考えようと、それは成る。どうせ成るなら刻をかけるまでもなかろう、と言うておる」
「俺はかならず仙になる! アンタのいいようにはならぬし、良師様を裏切るようなことはしない!」
小賢は声を荒げる。
「無駄じゃ。なりゃあせんよ、主は。そのテの才はあれには遠く及ばぬ。一時といえど、面倒をみた儂がいうとるんじゃ。
じゃが、他の道には長けておるやもしれんぞ? 無用に意地をはらず、天に替わって道をしめせ、のぅ?」
「替天行道······」
霊符水の教えを授かるさい、良師からもかけられた言葉。だが、その示すさきの道はまったく違うものとなろう。
「嫌だ······俺は仙人になるんだ、特別になるんだ。師匠のように······」
ぶつぶつと呟きながら、小賢は憑かれたように歩を進める。その背を于吉は嗤う。
「あやつも主の無才には気づいとるぞ。それが証に、主はいまだ、太平要術を拝ませてもらってはおるまい?」
ピタリ、と彼の足はとまる。
「そこいらの里娘にはほいほい見せるのに、なぜ愛弟子たる主にはみせんのじゃろうな」
「なにぃ?」
ギロリと、血走った瞳が于吉をとらえた。
師匠がアレを琴箭にみせた? 弟子たる俺が苦しんでいるのを知って、手助けせぬならまだしも、アレをただ聡いだけの童にみせたというのか!
「······俺だって、ちょっとの手がかりさえ貰えれば。アレを読ませてさえ貰えれば······」
「奴は恐れとる。主の無才さと、天分をの」
もう一度いうぞ、と于吉は小賢をみすえる。
「つまらぬ抗いは止めて、天に替わって道をなせ、奴に替わって道をなすのだ、張易よ!」
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えー。皆様、お忙しいこととは存じますが、勝手にノッてきましたので、八月のおわりまで、一回、二話更新とさせて下さいませ。
ペースは隔日で変わりません。




