方士・于吉、謀ること③
霊符術の習得以来、小賢は合間をみつけては里におり、治療をおこなう割合が増していった。
たが、それは使命感にめざめたとか、そういった殊勝な心根のためでないことは、自分がいちばんよくわかっている。つまるところ、修行から、そして己の無才から逃げているだけだ。
──いくら自己と向き合ってみた所で、自分は師匠のようにはなれない。
なにがなくとも、そんな焦りだけは確実に首をもたげてくる。
だがこうして里におりると、少なくとも病の者からは歓迎され、感謝してももらえる。自分という存在が必要なのだという実感に浸ることができる······
彼の、症状による霊符水の見極めはたしかであった。
じつはその施術のほとんどは、患者本人が自力で病を克服するために背中をおす程度のことだったのだが、それでも民はその奇蹟の術に感謝をささげた。現に治っているのだからそれでよいのである。
こうして彼は好むと好まざるとにかかわらず、かなりのはやさで人望をあつめはじめた。
よく太賢良師を知らない人からは師匠と勘違いされることさえあり、はじめは誤りをただしていたが、途中から億劫になった。
師匠ならとくに咎めることもないだろうし、そもそも師匠の名代であるのだから、その名声を高めるぶんには問題なかろう。そう考えた。
そんなある日。
いつもの通り、お決まりの順である郷をたずねた。
郷では太賢良師が診てくれるというので、かかりとなった屋敷には、大勢の民が押しかけ、大混雑となっている。
小賢は黙々と治療にはげんでいたが、ふと、なにかを感じて目線をあげた。
その視線の先にはひとりの老爺。
面妖なことに、そのなんということもない容姿の彼は、おおくの人の渦中にあれど、すっと彼の意識を吸いつける何かを持っている。
「······あの爺さん、まさか」
療治もすんで、小賢は、もてなしたいという地元の有力者の誘いをふりきって帰途についた。
「まったくいい気なものだ。この間までは俺を怒鳴りつけていた連中が、いまや誼を結ぼうとやっきになってやがる」
以前の自分なら、そのことにいささかでも満足を覚えたことだろう。馬鹿にされるたびに、いつか見ていろと奥歯を噛みしめて思っていたことが実現しているのだ。悪い気のするはずがない。
だが今の己には、まったく無価値な称賛だった。いま、この胸にあるのは仙人になること。仙になって偉大な力を手にすること、ただその一点のみにしかない。
「ムリだな。おンしにゃあムリじゃよ」
ギョッとしてみると、道脇の樹の根に、先ほどの老爺が腰を下ろしているではないか。格好からして、いかにもこちらを待っていた風である。
「久しいのぉ、張易」
「······于吉師匠」
誤字を修正しました。




