方士・于吉、謀ること②
さすがに家をあけすぎた。
父、伯昭は自分たちが司隷までいって帰ってくるものだと思っており、まさか冀州まで足を延ばしていようとは夢にも考えていまい。
ともが妖・月塊なのですこしは時も稼げようというものだが、それにも限界がある。
このままでは衛家に消息をたしかめる書簡が届き、当家には無事な様子で着かれ、出立なされたとの返書が、自分たちよりも先に父上のもとにかえる。さすがにそれは本意ではない。
「とにかく一両日中に決めなきゃ。といっても難しそうだけど。良師様から書を回収するのか、しないのか。それをどこに納めればいいのかとかさっ」
のしっ。
落ち着けとばかり、虎の肉厚な扇のような手が頭におかれる。ちょっと爪が出てて痛い。
「······うう、そうよね。──そうだ、書簡よ! 元気で、月塊と家へむかってますって書簡を送ればいいのだわ」
そうすれば父上のご心配も、すこしはやわらぐだろう。あとはそれを嘘にしないよう計らうだけだ。それにはまず──
「ちょっと月塊っ。ダラけてないで今すぐにもとに戻ってよ、ほらっ、はいっ」
もちろん月塊といえどその思いに違いはないが、それが叶うならとっくにやっているのだ。どれだけ囃されようと、無理なものは無理である。
月塊、もとい白虎は、その太い尾で琴箭の顔をわさわさと撫でる。
おもわず笑いだしながらも、誤魔化さないでよととがめる賑やかな母屋に、小賢がぬっと入ってきた。
また歳をとっている。外見だけならば良師とほとんど変わらない。実際、髪も髭もととのえるのが億劫になったのか伸び放題で、まるでもうひとり太賢良師がふえたといってもよいほどだった。
「あ、小賢さん。里に下りるの?」
小賢は落ちくぼんだ虚ろだがするどい目をこちらに向けると、しゃがれた声で「ああ」とかえし、護符やらをまとめた荷をおって出ていった。
「······小賢さん、大丈夫かな。なんだか最近ずっとあんな風だし。目つきもなんだかすごく怖い······」
ぽそりとそう呟いて、艶のある毛並みをなでてくる琴箭の声に白虎ものそりと顔をあげ、ついさっき彼がでていった戸口をみつめた。




