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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
73/403

方士・于吉、謀ること②


 さすがに家をあけすぎた。

 父、伯昭は自分たちが司隷(しれい)までいって帰ってくるものだと思っており、まさか冀州(きしゅう)まで足を延ばしていようとは夢にも考えていまい。

 ともが妖・月塊なのですこしは時も稼げようというものだが、それにも限界がある。

 このままでは衛家に消息をたしかめる書簡が届き、当家には無事な様子で着かれ、出立なされたとの返書が、自分たちよりも先に父上のもとにかえる。さすがにそれは本意ではない。


「とにかく一両日中に決めなきゃ。といっても難しそうだけど。良師様から書を回収するのか、しないのか。それをどこに納めればいいのかとかさっ」


 のしっ。

 落ち着けとばかり、虎の肉厚な扇のような手が頭におかれる。ちょっと爪が出てて痛い。


「······うう、そうよね。──そうだ、書簡よ! 元気で、月塊と家へむかってますって書簡を送ればいいのだわ」


 そうすれば父上のご心配も、すこしはやわらぐだろう。あとはそれを嘘にしないよう計らうだけだ。それにはまず──

「ちょっと月塊っ。ダラけてないで今すぐにもとに戻ってよ、ほらっ、はいっ」


 もちろん月塊といえどその思いに違いはないが、それが叶うならとっくにやっているのだ。どれだけ(はや)されようと、無理なものは無理である。


 月塊、もとい白虎は、その太い尾で琴箭の顔をわさわさと撫でる。

 おもわず笑いだしながらも、誤魔化さないでよととがめる賑やかな母屋に、小賢がぬっと入ってきた。



 また歳をとっている。外見だけならば良師とほとんど変わらない。実際、髪も髭もととのえるのが億劫になったのか伸び放題で、まるでもうひとり太賢良師がふえたといってもよいほどだった。


「あ、小賢さん。里に下りるの?」


 小賢は落ちくぼんだ虚ろだがするどい目をこちらに向けると、しゃがれた声で「ああ」とかえし、護符やらをまとめた荷をおって出ていった。


「······小賢さん、大丈夫かな。なんだか最近ずっとあんな風だし。目つきもなんだかすごく怖い······」

 ぽそりとそう呟いて、艶のある毛並みをなでてくる琴箭の声に白虎ものそりと顔をあげ、ついさっき彼がでていった戸口をみつめた。



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