月塊、琴箭に貢ぎ物にされること②
「はァ? 冗談じゃないぞ! なんだって俺が······」
突然声を荒らげた妖は、無意識に立ち上がろうとしたか、縛めに足をとられてそのままゴロリと床に転がった。
「──いいか、俺はソイツを狩りにきたんだ!」
足元で無様でもがく妖に、琴箭はあきれ声で応じる。
「あのねぇ、いまさらそんな嘘がとおると思っるんですか? 妖なんて珍しい存在、そんなにいるわけないじゃない。だいたいなんです、狩るって。仲間同士傷つけあうの? なんのために」
「きまってんだろ」地面に腹ばいになりながらも、誇らしげにまっすぐ顔をあげてその妖はいい放った。
「仙人になるためだ。俺は悪事をやらかす妖を退治して、昇仙するんだ!」
··········
遠くで牛の間伸びした声がきこえる。これだけ分厚い壁に閉ざされたところに、よくまあひびいてくるものだ。
······ああ、そっか、明り窓からはいってくるんだ。
「はっ」
どこかへ散歩にいきかけた精神を、琴箭はあわてて呼び戻した。
それじゃなに······人違い、いや、妖ちがいだったっての? そんなことってある?
「······おい、こいつは···」
「······あ、ああ」
少年たちもうっすらと、事情をのみこみはじめている。
マズイ。
「あー、ちょっと御免なさぁい。みなさん、すこしだけ出ててくません? 私とこのヒト、ふたりにして?」
「えっ? いや、それは危ないだろ?」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。みてくださいよ。こんなのにどうこうされっこないです」
琴箭は強引に、少年たちの背中をぐいぐい押しながら、全員そとへと追い出してしまった。
「ちょっとぉ、なに言ってくれてんの? アンタが犯人じゃないと、私が困るのよ!」
ふたりきりになった途端、コロリといいコの仮面を脱ぎ捨てた琴箭に、妖はあきれ顔で鼻をならした。
「ふん、知るか。俺はなにひとつ嘘はいってない」
しばらくじーっとその妖を凝視してから、琴箭ははぁ、と溜め息をついて俵の山にもたれかかった。
「······えー、なにー? これじゃ、私の作戦が台無しじゃん···」
だが、この琴箭。生来頭の回転がとにかくはやい。このときも、瞬く間に第二案をひっぱり出してしまった。
そうよ、まだ。冴えてる。えらいぞ私。
くるりと振り返ると、琴箭はにこにこしながら、妖へと歩みよった。
「······ところでさぁ。貴方、名前は?」
「······月。字は塊」
「──んと、月塊ね。ちょっとさぁ、相談があるんだけどね?」
怪訝そうな面をうかべる月塊に、琴箭はかがみこんで顔をよせた。
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