月塊、白栗鼠となり、琴箭、太平要術にたいすること②
琴箭は黙ったまま、掌をみつめた。
白栗鼠と化した月塊も、どうやら人語は忘れていないらしく、一度こちらをみあげると、ふてぶてしくも──可愛らしくも──プイと横をむいて、頭の後ろから顔のへんまで、くりくりと両手で毛をもってくるようにしながら、つくろいはじめる。
ちょっとちょっとぉ······アンタがそんなんじゃ、いざって時どうするのよぉ。
絶句した琴箭に、良師はいった。
「どうもお主ら、太平要術に関心があるようだな。いや、ひょっとすると南華老仙とかいう御仁がか」
良師はため息をつくと、ちょっと待ってろ、といって出ていった。
なんだろう、と、残されたふたりは顔を見合わせる。
──じーっ。
「······」
「······」
「! ヂューッ!」
自分を凝視する琴箭に月塊リスは突如、奇声をはっしてその頭に飛びのり、盛んに髪の毛をひっぱり出す。
「あいたたっ、ごめんごめん! 可愛いからこのままでもちょっといいかなって思ったのはごめんって!」
「·····なにをやっとる。ほれ」
ふたたび庵に帰ってきた太賢良師はふたりの様子をみて、あきれながら手にさげた包を木床にドサリとおいた。それをあけてみると、十巻ほどの巻物がゴロリとでてきた。なんとも貴重なことに、全て紙でこしらえてある。
「えっ、これは──?」
「だから太平要術だ。そんなに興味があるなら読んでみろ」
「!」
驚いて自分をみる琴箭に、良師はカラカラと笑った。
「べつに隠すようなことは何もありゃせんわ。きちんと口で言えば見せてやったのだ」
琴箭はほうけたように書に目を落とすと、表に初とかかれたひと巻をしゅるりと紐解いた。彼女の頭がさがると当然、頭上の月塊もそれをのぞきこむ形となる。が、
「おっと、お前さんは駄目だ」
良師はむんずと月塊リスをわし掴みにし、掌中で暴れるのもいとわずに、すたすたと戸口に向った。
「それがすんだら、ちょいと小賢の様子を見に行ってやってくれ。何かつかんでいようがいまいが、いちど戻れと伝えるのだ。たのんだぞ」




