月塊、太賢良師より果実弾を喰らうこと③
迫りくる脅威をまえに良師は呑気に小鼻をかく。
小賢にうしろをむかせ、その背にあった籠のなかからみっつほど果実──あれは蜜柑だろうか──をとりだすと、それっとばかりに月塊に投げつけた。
「ハッ」
月塊は鼻でわらい、それを軽々と腕で弾き飛ばす。だが良師はかまわず、「ホイホイホイ」と投げつける。
と、どうしたことか。
月塊の足がじわじわと押し止まってしまった。これには月塊も、はたで見ている琴箭も驚愕した。
まず狙いがおそろしく正確無比である。
だがそれだけにあらず。彼が右足を踏みしめようとすれば刹那はやく左足に、そこを踏ん張ろうとすれば右足に、下半身をかばおうとすれぱ顔を狙われ、また腹、肩、足と果樹弾をくらい、重心をくずされる。気づけば立っているのがやっとといった状態まで追い込まれていた。
「うそ······」
「ワシは若い頃、猟師でなぁ」
余裕からか、良師はまだ青い実をひとつかじりながら、片手でひょいひょいと投げつけつつ、独り言のようにつぶやき出した。
「山に入っては、こうして獣を飛礫で仕留めてきたものだ」
「弓矢なしに、石っころでですか?」
小賢も驚愕する。
「そうだ。たくさん殺した············だから今、こんな生活をしている」
ピタッ、と良師の手がとまる。みると月塊はすっかり戦意を喪失させ、地面に這いつくばっていた。琴箭が駆けよると、なんともいえず果実のいい匂いがたちこめている。
「月塊、あんた············」
「······ちぎしょう、あの野郎············」
さすがに凹んでいるようだ。とうとう人間に敗けたのね、という率直すぎる言は口に出さないでおくことにしよう。
「まあ、そういきりたつな、お若いの。その童を連れ帰ったのは治療のためでな。お主のような連れがおることも知らぬことだったのだ。それよりせっかく来たんだ。この山を楽しんでいくといい」
良師はくるりと背を向けると、おいてあった籠をかつぎあげ、すたすたと庵にはいっていく。
「とくにお前さんのようなモノにとっては、面白い所だぞ」
とうに正体までバレてしまっていたらしいことに、月琴はともども、ただただ顔を見合わせるのみであった。




