月塊、太賢良師より果実弾を喰らうこと
チヨチヨと鳥がさえずる。
ゆすり落とすまでもなく、草のうえにぽこぽこ落ちている果実をしゃがんでひろう。そうやって、いくつかをまとめては籠に入れるその手をとめ、琴箭は天を仰いだ。
まったく北とは思えぬほど温やかだ。暑くも寒くもなく、ほんとうに春の里にいるようである。養春山とはよくいったものである。
なぜか太賢良師に気に入られてしまった琴箭は、快癒したかどうかの観察を名目に、しばらく山にとめおかれることになった。いまはめいめい分かれて、庵をかこむようにたつ果樹の手入れをしている。
手にもつ桃はやわやわして瑞々しく、いかにも美味そうだ。生っているところや、売られているところは見たことがあるが、いまだ口にしたことはない。
「······」
そうなると、つい食べてみたい衝動にかられてしまうわけだ。ただどういうわけか、この山では極端にお腹が空かないのでなんとか我慢できている。
しばらくここに滞在するにあたって、太賢良師はいくつか決まり事を守るようにいった。
曰く、この山の食物を口にしないこと。そして、いま首元で音をたてたこの木鈴を、肌見離さず持っていること。
この山は外界との時の流れのちがう場所であり、すこしでもまともに齢を重ねたくば、それかもっとも賢い方法なのだそうだ。つまり、それを守らずしてはあっという間にお婆ちゃんになりかねないということらしい。
それらを思い起こし、琴箭はぎりぎりのところで思いとどまった。
あぶない、あぶない。
さしずめこの山は、まるごとが、いつか盤の旦那がみせてくれたあの門の術のそれと似たような処なのだろう。
まったくおかしなことにばかり、慣れっこになってしまったものだ。これもひとえに、人ならざる者らとの出会いのせい。
「ん? そういえば月塊はどうした?」
うっかりというにはあまりにもな忘れものである。いかにそれどころではなかったとはいえ、さすがに心配させてしまっただろうか。
「う〜ん?」
落とし物をやらかした時によくそうするようにじっくりと思い返してみる。たしか最後にみたときは············
琴箭があともうちょっとで思い出そうというとき、太賢良師の野太い声が邪魔をした。
「うぉーい、ちょっと来てくれんかー」
サブタイトルを修正しました。
サブタイトルをさらに修正。あれじゃ樹をぶん投げてることになりますよね······




