琴箭、太賢良師に善をみること
目が醒めると木組みと茅葺きの天井がみえた。
おもてからさす光は清澄で、若々しさにみち、その淡いを照らした。鳥のさえずりも心地よく耳をうつ。
まるで自宅で寝床から起きるように、琴箭はおおきくのびをすると、むくりと体をおこした。
「ん······あれ?」
瞬間、ほんとうに庵にかえってきたような錯覚をおぼえたのは、これまでの旅路で積もった疲労が、さっぱりと消え失せていたせいだ。肩をまわしても脚をさすっても、凝りのひとつさえない。
「おう。目がさめたか」
ガタリと表扉がひらき、髪も髭もボサボサの男がのそりと入ってきたときには、さしもの琴箭も青ざめた。かけてあった衣をたぐり寄せたほどだ。
だが男は、そんな対応は意に介さぬとばかり、負っていた薪の束を土間におろすと、履物をぬいで上がり込んでくる。
「え、ちょっと······月塊!」
「おい、なんだその態度は。命の恩人に無礼だろう」
つづいて入ってきた若い男が声をあらげた。
「え──張さん?」
見知った姿をみて、琴箭はほっと安堵する。
張易はやれやれといった様子で桶をおくと、土間からあがって、見知らぬ男のうしろに座った。
「この方が、おまえたちの捜していた太賢良師様だ。おまえ、大変だったんだぞ。いきなり熱出してぶっ倒れて。たまたま良師様がいらっしゃって下さらなければ、どうなってたか······」
「む? ワシを捜していたとな」
太賢良師が心持ちふりかえるようにしてこぼす。
「じゃあ、この方が南華老仙様のおっしゃった······」
ここまで言葉にして、琴箭はしまったと口を抑えた。
我ながら失策であった。
夢の託宣は本当だったとか、この男が太賢良師かとかいう好奇心が、ついゆるんでいた思考を置き去りにさせてしまったのだ。
南華老仙の名がでたとたん、ギロリ、と太賢良師の目玉が、床の上で口を抑える琴箭をとらえた。
「なにぃ?」
次回更新は土曜日となります。
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