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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
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月琴、張易にであうこと②


 そこは寂しい野原だった。

 荒れ果てた家の跡は瓦礫にうもれ、草木はみょうにひ弱でひょろひょろとゆれる。空はくらく、気のせいか吹く風もうす寒い。そんななかを進むのだから、自然気も重くなるのは無理からぬことなのだが。


 なんだろう、ボーッとする······


 今朝からどうも、琴箭は体の具合がわるかった。

「おい琴箭、大丈夫か?」

「······んー」

 めずらしく月塊が気遣うふうにとうが、返事はかんばしくない。


 そのとき、風にのって物音がきこえてきた。月塊が耳を澄ませると、なにやら争っている風情である。

「人か? こりゃいい」

月塊はしゃにむに駆け出した。



 うら寂しい風景のなかをわずかに駆けたところで、五、六人の男が争っている場に行きあった。

 争っている、とはいったが、あきらかにひとりが逃げ、ほかの五人が追うという状況だ。しかも身形はお坊ちゃん風であるのに、追う五人は腰に剣をさげたり、手に棒をもったりなどしておだやかならざる気配である。


 月塊は構うことなく、そのまんまん中に割って入っていった。

「なんだお前は!」

「いい所にあった。どっちでもいいからちょっと道を訊ねたい」

「なにィ? ふざけた奴だ!」


あと一歩で逃げるやつを捕らえんとしていたところであった男たちは、この妙な闖入者にいきりたつ。

「お前、そいつを庇う気か! ただではおかんぞ!」

「あぁ?」


 後ろをみると、いつの間にか追われていた男が彼の背にかくれるようにしてうずくまっていた。

「違う違う、俺はただ道を──」

「黙れ! 卑しい流民めが! 近頃お前みたいな奴が増えて迷惑していたところだ! そいつ共々世の中ってもんを教えてやる!」

 男らは一歩さがると、月塊を囲んでスッと剣を抜いた。


 月塊の腰にさがった剣をみてすこしは警戒したらしい男は、彼がそれを抜くそぶりもみせず棒立ちのままでいるところから、怯えているのだと決めつけた。

 そこで脅しのとどめとばかり、いきなり肩口をねらって斬りつけた。



 ギィ!



 にぶい音をたてて刃がとまった。



 ふるった男は、唖然としてその現実をみる。

 とうぜん避けるだに庇うだにするだろうと思ってふりおろした刃は、あっけなく眼前の少年の首筋に立った。

 立った。そう、ただ、立っていただけだ。剣はわずかに首筋にめりこんだのに、血はながれもせず、その少年からは叫び声ひとつきこえてこない。

 剣をひくと、たしかにそれが相手に傷をおわれたのだという微かな手応えがあった。だがそれはふたつに折れて、剣先かボトリと地に落ちる。


「!」


「なんだこりゃあ、ずいぶんな(なまく)らさしてやがんなぁ」月塊はぽりぽりと首をかく。


「なんだ、こんなもん!」

 いうが早いか、隣でたちつくしていた男の手から剣をひったくると、みずからの頭に叩きつけて、粉々に砕く。


「!!」


ほらこれも、それも、あれも。そういいつつ、次から次へとひったくっては頭で粉砕していく。

 さすがに最後の男は惜しんだのか抵抗を試みるが、腕力ではなおさら叶うはずもなく、やはり奪われてうち砕かれる。

「どうだ! まだ何かあるか!」

「ひぃいいッ!」



 信じられぬものをみた男たちは我先にと、争うようにして来た道を全力でひき返していった。

「あ、ひとり捕まえるんだったけか······ま、いい。聞くまでなくなったしな」

 ともかくも、すすむ方角じたいは合っていることはわかった。男たちが逃げていったほうに人の住む処があるのだ。


「おいちょっと待て!」

 とつぜんの声に振り返ると、さっき草葉の陰でしゃがんでいた男が、息せき切らせてたっていた。

「······なんなんだお前。今どうやって」

「あぁ?」


ふたりが妙な空気のなかで睨みあっていると、のそのそ、といった感じで琴箭を載せた槽がちかづいてくる。

「······あ、すいません。ウチの妖がまたなにか?」

「妖だって······?」



「とり乱して悪かった。俺は張易」

 男はそういって、ふてくされた顔のまま辞儀をする。

「私は蔡琴箭。で、こっちが」

「月塊」

「で、お前たちは、その仙人を捜しているのか?」

張易となのったそのわかい男は首をひねる。


「だが養春山······養春山か」

「? なにか食い違いでも?」

「いやぁ、あるには、あるんだ。だが仙人が住むかっていうとどうだっていう······お世辞にも深山幽谷とはいえん、たんなる低山なんだ。俺もよく薪を拾いにいったが」


 それをきいてふたりはがっかりした。だが、満更たんなる夢でもなかったことは事実なので、とりあえず確かめるためにも、そこまでは行ってみようということになった。


「そういやお前、なんで追われてやがったんだ?」

「······ちょっと真を突いてやっただけさ。アイツら、阿呆どもめ!」

といって、張易はずいぶんな剣幕で唾をはく。

「お前らが役人の試験にうかったのは家の力のせいであって、(ここ)の出来じゃない。俺が落ちたんじゃない、お前らが合格させてもらえたんだ──てな」


 んー、たとえそれが本当であっても、そんなこと面と向かって言えば、ああなるのも仕方ないんじゃないかな······月塊のやつ、また妙なヒトをみつけて────


 ぐらり、と身体が揺れるのがわかった。


「···············あ、れ?」


 みえない手におおいかぶさられるように、琴箭は、ゆっくりと槽の背にうつ伏せになった。


「琴箭? おい、琴箭!」



少○寺の映像とかでみられる、あんな感じのやつです。


一部かな使いを修正しました。

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