琴箭一行、鬼門をくぐり、許昌にはいること
ひと晩野宿をすることになったが、一行は無事に広陵へとたどり着いた。
ここで親戚や頼りのあるという四人ほどの子らとわかれ、琴箭たちはつぎなる目的地、彭城をめざす──ということになるはずだったのだが。
「で、どうしよう。実際のところ」
火を囲みながら、琴箭は問うた。月塊はむっつりとして答える。
「どうと言われてもな」
突発的に大所帯になった一行には、いまかなり深刻な問題が生じていた。
どうしても一日の歩みが遅れがちになってしまう、ということだ。仲間のうちにはまだ幼い子もいるため、なおさらであった。だが日々のちょっとした遅れは、そのまま食糧の問題へとおおいかぶさってくることになる。
「ごめんね。私らがついていなきゃ、ずいぶん違ったよね···」
童女たちのなかで年長の三人ほどが、この合議に顔をそろえるなか、いちばん姐分の娘が頭をたれる。琴箭はその行為を、両手をふって制した。
「ううん、それはいいの。いま話さなくちゃいけないのはさ」
「うん、そうだね。ごめん」
今宵は崩れた家の跡に、全員でより集まっている。屋根はないが、壁があるだけでもだいぶ違うのはありがたかった。
みな眠りについたのか、槽がすぐそばによってきて、琴箭の肩に鼻をこすりつけてくる。ここ二日ほど、槽は小さな子らを一頭で運んでくれている。負担は琴箭ひとりのときの比ではないはずだった。この先のことを考えるなら、彼女の体調についても考えてあげねばならぬだろう。
「ひとつ提案がある」
月塊は荷から笹っぱにつつんだ雑草団子をとりだした。
「進路をちとかえて、許昌にいってみないか?」
「許昌に?」
はじめの計算では、このまま彭城、陳留と川にそって西進するつもりだった。そしてやや南へとそれるものの、許昌はその陳留とはほど近い。おおらかにみれば西にあたるので、まんざら無駄足というわけでもないが······
「でもなんで許昌に? なにかあるの?」
「ひとり、アテになりそうな男がいる」
手にもった団子を槽に失敬されながら、月塊はつづけた。
「変わった奴でよ。ずっと昔から人の中にまぎれて暮らしている」
「て、ことは」
「ああ、妖だ。それもとびっきりのな。あまりにもどでかい気配をたれ流してやがるんで、俺たちの界隈じゃ、目印がわりにされてるくらいだ。前は咸陽だ、洛陽だと都ばかり好んでたんだが、今はなんでか許昌にいるようだな」
こんなふうに同輩のことをかたる月塊をはじめてみた気がする。にしても、彼をしてそこまで言わしめるほどの大妖か······もうそれって、麒麟様よりももっと凄い、伝説上のなにかなのではなかろうか。
「そのヒト? のところへ行けばなんとかなるのね?」
「ああ、奴にはいくつか貸しもある」
そういうことなら話は決まりだ。だが、まだそもそもの問題がのこっている。
「どうやってそこまで? 日がかかりすぎるわ。みんな、とてもそこまでは保たないよ」
そう。当初の旅程にしろ、許昌直行にしろ、この調子でいくと十日ちかく。いやもしかするともっとかかるかもしれない。
明日、このつづきを更新いたします。




