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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
51/403

琴箭一行、鬼門をくぐり、許昌にはいること


 ひと晩野宿をすることになったが、一行は無事に広陵へとたどり着いた。

 ここで親戚や頼りのあるという四人ほどの子らとわかれ、琴箭たちはつぎなる目的地、彭城(ほうじょう)をめざす──ということになるはずだったのだが。


「で、どうしよう。実際のところ」


火を囲みながら、琴箭は問うた。月塊はむっつりとして答える。


「どうと言われてもな」



 突発的に大所帯になった一行には、いまかなり深刻な問題が生じていた。

 どうしても一日の歩みが遅れがちになってしまう、ということだ。仲間のうちにはまだ幼い子もいるため、なおさらであった。だが日々のちょっとした遅れは、そのまま食糧の問題へとおおいかぶさってくることになる。


「ごめんね。私らがついていなきゃ、ずいぶん違ったよね···」

 童女たちのなかで年長の三人ほどが、この合議に顔をそろえるなか、いちばん姐分の娘が頭をたれる。琴箭はその行為を、両手をふって制した。

「ううん、それはいいの。いま話さなくちゃいけないのはさ」

「うん、そうだね。ごめん」


 今宵は崩れた家の跡に、全員でより集まっている。屋根はないが、壁があるだけでもだいぶ違うのはありがたかった。

 みな眠りについたのか、槽がすぐそばによってきて、琴箭の肩に鼻をこすりつけてくる。ここ二日ほど、槽は小さな子らを一頭で運んでくれている。負担は琴箭ひとりのときの比ではないはずだった。この先のことを考えるなら、彼女の体調についても考えてあげねばならぬだろう。


「ひとつ提案がある」

 月塊は荷から笹っぱにつつんだ雑草団子をとりだした。

「進路をちとかえて、許昌にいってみないか?」

「許昌に?」


 はじめの計算では、このまま彭城(ほうじょう)、陳留と川にそって西進するつもりだった。そしてやや南へとそれるものの、許昌はその陳留とはほど近い。おおらかにみれば西にあたるので、まんざら無駄足というわけでもないが······


「でもなんで許昌に? なにかあるの?」

「ひとり、アテになりそうな男がいる」


 手にもった団子を槽に失敬されながら、月塊はつづけた。

「変わった奴でよ。ずっと昔から人の中にまぎれて暮らしている」

「て、ことは」

「ああ、妖だ。それもとびっきりのな。あまりにもどでかい気配をたれ流してやがるんで、俺たちの界隈(かいわい)じゃ、目印がわりにされてるくらいだ。前は咸陽(かんよう)だ、洛陽だと都ばかり好んでたんだが、今はなんでか許昌にいるようだな」


 こんなふうに同輩のことをかたる月塊をはじめてみた気がする。にしても、彼をしてそこまで言わしめるほどの大妖か······もうそれって、麒麟様よりももっと凄い、伝説上のなにかなのではなかろうか。

「そのヒト? のところへ行けばなんとかなるのね?」

「ああ、奴にはいくつか貸しもある」

 そういうことなら話は決まりだ。だが、まだそもそもの問題がのこっている。

「どうやってそこまで? 日がかかりすぎるわ。みんな、とてもそこまでは保たないよ」


 そう。当初の旅程にしろ、許昌直行にしろ、この調子でいくと十日ちかく。いやもしかするともっとかかるかもしれない。




明日、このつづきを更新いたします。

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