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妖の月円塊、琴箭に囚われること②


 まず最初に目にはいったのは、人間のものとまったく遜色のない、二本の足だった。きちんとした衣をまとい、足首には脚絆(きゃはん)をつけ、靴まではいている。

 そのままゆっくりと視線をあげていくと、古びてはいるが見事なつくりの鎧に、立派な胴巻きをしめているのがわかった

 手甲(てっこう)をつけた腕はながい袖にかくれてよくはわからなかったが、それでも、あのとてつもなく重い木材を粉々にするほどいかついとは思えない。

 月の光によって照らされた顔からみえる歳の頃は、十五ほど。頭のうしろで結ってまとめた鋼のように黒光りする髪が、首にまいた布と一緒に夜風に揺れている。

 ただ、その存在が尋常のものではない証拠に、身体のあちこちにはいくつも穴があき、頰には亀裂がはいっていた。


 怒りに燃えた瞳が、犯人をさがすように左右にむけられる。そのたびに里人はちいさく悲鳴をあげ、おたがいの後ろに隠れるようにして首を横にふった。

 そこでふと、妖の瞳が、すぐ目の前で腰をぬかして倒れこんでいる小さな影に気づいた。



「あ······」

 いまにも泣き出しそうな潤んだ瞳で、琴箭は妖を見上げた。

「······ふん、まさかな」

ズイと、妖が一歩踏み出す。とたんに、



「キャァ─────ッ!」



絹を裂くように、琴箭は悲鳴をあげた。

「! おいまて、俺はなにもお前を──」

「キャ───ッ、キャ───ッ!」

琴箭は必死に腕と足をジタバタさせて後退る。


「お、おい、アイツ。まさかあんな幼子を手にかけようなんてんじゃ···」

「······なんて野郎だ。とても強者の、いや、男のやることじゃねえ」


 せめてもの抵抗とばかり、ヒソヒソと、それでも聞こえよがしに囁き合う里の者たち。その声が地味に妖の癇にさわった。

 妖はだんだんイライラしだしながら、とにかくこのうるさいちっこいのを黙らせようと足をずんずん踏み出す。



「とにかく黙れ、いいか? 俺は」



 ──つぎの言葉を発しようとした直後、突如体勢が崩れた。

 いきなり足下の感覚がきえ、目の前がいままで以上に真っ暗になる。身体全体ががっちり拘束されたのがわかった。


「なっ、なんだこりゃ······落とし穴ぁ?」


 あわてて抜け出そうともがくも、なんとしたことか、穴はちょうど彼の身体がずっぽりはまる程度の幅しかなく、腕一本動かすこともできない。

 ゆいいつ動かせる顔をあげてみると、吹き出しそうなのを必死にこらえる琴箭の小生意気な顔がうつった。



「···ぷふっ」

「がっ!」



「······やったぞ! 今だ! 急げぇっ!」

「そこだ! 牛のアレやソレをひっかけてやれ!」

「! ばっ···やめろ! わかった、降伏する! だから牛のアレやソレをひっかけるのはやめろォォォ──ッ」


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