微大尽、童女らにこてんぱんにされること②
月塊の案内についてのんびりいくこと数刻。ふたりと一頭は土壁の牆門をぬけ、里道にはいった。
なるほど。きいたとおり規模はなかなかのもので、戸数もおおく、道の脇にひろがる田畑もひらけている。
目的の屋敷はどこだろうかとみまわす。と、木陰にひとりの男が休んでいるのをみつけた。道を問うと、
「ああ、それなら微大尽のところだな。このまままっつぐお行きなさい、右手にみえてくるから。ああ。あんたみたいな」
そこで、農夫にしては妙に目つきの鋭い男は、笠のかげからチラッと琴箭のほうをみて、つづけた。
「お人なら喜んで泊めてくれるだろうぜ」
教えられたとおりに道なりにゆくと、すこし小高くなったあたりに、いっぱしに門をかまえた屋敷があらわれた。
門口にたって請うと、下男のしらせをうけた主人みずからが先にたって、中へと招き入れてくれる。
主人は姓を微といい、ちょろり髭をはやした四十すぎの小太りの男だった。
「ええ、よいですとも。今夜は我が屋敷にお泊りくだされ。というのも、わしは旅人から話をきくのがめっぽう好きでしてな。あんた方からも、ぜひお話をききたいのですよ」
「でも私たち、ほんの数日前に発ったばかりなので、これといったお話は······」
申しわけなさそうに琴箭がいうと、微大尽はわらった。
「なに、ならお故郷のことでもかまわんのです。とにかくいろんな土地のことを知っておきたいのでして」
通された部屋でしばらく休んでいると、女中たちが料理ののった案をいくつかはこんできた。
「なんだか、これだと逆に悪いわね。まさかこんなにまでしてもらえるなんて······」
琴箭はあまりの成り行きに目を丸くして、器ののった案をみつめた。この家の主は、どうもこの里の実力者らしい。世には食うにもこまる人がいくらでもいるのに、なんと羨ましい、そして豪気な人もいたものだとかぶりをふる。
とはいえ、せっかくのおもてなし。ここは甘えさせていただこう。
そえられてある杯の中身は、どうやら醴──粥にしたキビに麹をいれ、数日間醸造した飲物──のようだ。鼻を近づけると、かすかに甘い香りがした。
「いただきまーす」
琴箭は杯をとると、一気に飲み干そうとした。
「ちょっとまて」
なんのつもりか、月塊がそれをにわかに止める。そうしておいて自分のものをぺろりとなめ、眉根をよせた。
「こいつは······」
「はれぇ? なんでだろ、疲れてたのかなぁ。なんだか、ひどく······ファ〜、眠たいの」
そんな声がきこえ、どたりと音がする。
外でその音をきいた微大尽は、喜色をうかべ、手もみしながら扉をあけた。
「おやおや、これは馳走にも手をつけずに······なんとも盛りがいのないことだ」
そうして、すっかり眠っているふうな琴箭の横顔を満足そうにみて、つれてきた男たちに命じる。
「この娘はなかなかの拾いものじゃ。お前たち、丁寧に運べよ? なに、男の方? しるか、里の外へでも捨ててこい!」
次回更新は、火曜日となります。




