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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
太平要術論
49/403

微大尽、童女らにこてんぱんにされること②


 月塊の案内についてのんびりいくこと数刻。ふたりと一頭は土壁の牆門(しょうもん)をぬけ、里道にはいった。


 なるほど。きいたとおり規模はなかなかのもので、戸数もおおく、道の脇にひろがる田畑もひらけている。

 目的の屋敷はどこだろうかとみまわす。と、木陰にひとりの男が休んでいるのをみつけた。道を問うと、


「ああ、それなら微大尽のところだな。このまままっつぐお行きなさい、右手にみえてくるから。ああ。あんたみたいな」

そこで、農夫にしては妙に目つきの鋭い男は、笠のかげからチラッと琴箭のほうをみて、つづけた。

「お人なら喜んで泊めてくれるだろうぜ」



 教えられたとおりに道なりにゆくと、すこし小高くなったあたりに、いっぱしに門をかまえた屋敷があらわれた。

 門口にたって請うと、下男のしらせをうけた主人みずからが先にたって、中へと招き入れてくれる。

 主人は姓を微といい、ちょろり髭をはやした四十すぎの小太りの男だった。



「ええ、よいですとも。今夜は我が屋敷にお泊りくだされ。というのも、わしは旅人から話をきくのがめっぽう好きでしてな。あんた方からも、ぜひお話をききたいのですよ」


「でも私たち、ほんの数日前に発ったばかりなので、これといったお話は······」


 申しわけなさそうに琴箭がいうと、微大尽はわらった。

「なに、ならお故郷(くに)のことでもかまわんのです。とにかくいろんな土地のことを知っておきたいのでして」



 通された部屋でしばらく休んでいると、女中たちが料理ののった(おぜん)をいくつかはこんできた。


「なんだか、これだと逆に悪いわね。まさかこんなにまでしてもらえるなんて······」

 琴箭はあまりの成り行きに目を丸くして、器ののった案をみつめた。この家の主は、どうもこの里の実力者らしい。世には食うにもこまる人がいくらでもいるのに、なんと羨ましい、そして豪気な人もいたものだとかぶりをふる。

 とはいえ、せっかくのおもてなし。ここは甘えさせていただこう。

 そえられてある杯の中身は、どうやら(らい)──粥にしたキビに麹をいれ、数日間醸造した飲物──のようだ。鼻を近づけると、かすかに甘い香りがした。


「いただきまーす」


 琴箭は杯をとると、一気に飲み干そうとした。

「ちょっとまて」

なんのつもりか、月塊がそれをにわかに止める。そうしておいて自分のものをぺろりとなめ、眉根をよせた。


「こいつは······」




「はれぇ? なんでだろ、疲れてたのかなぁ。なんだか、ひどく······ファ〜、眠たいの」


 そんな声がきこえ、どたりと音がする。

 外でその音をきいた微大尽は、喜色をうかべ、手もみしながら扉をあけた。


「おやおや、これは馳走にも手をつけずに······なんとも盛りがいのないことだ」


 そうして、すっかり眠っているふうな琴箭の横顔を満足そうにみて、つれてきた男たちに命じる。


「この娘はなかなかの拾いものじゃ。お前たち、丁寧に運べよ? なに、男の方? しるか、里の外へでも捨ててこい!」



次回更新は、火曜日となります。

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