江賊、水難にあうこと
翌朝。一行は日も昇らぬうちから庵を後にすることにした。
おもえばかなりの危険な旅のはじまりである。だが琴箭には、なんといっても妖、月塊が付いているのだ。およそ旅人が苦しむ難ならば、たいていのことは何とかなる気がしていた。
頭に笠をかぶった琴箭は、大切なもの一式を布にくるんだ荷を肩がけにし、愛驢馬、槽にまたがった。
その背には彼女のほかに、干した米や豆などの食糧、竹筒でこしらえた水筒に替えの着物、道中杖などの道具が積みこまれている。
いっぽうの月塊は、首元には一枚布を結び、衣に手甲脚絆姿。旅装ということもあってか鎧はつけておらず、胴巻きのみをしめている。そして腰にはみなれぬ得物をさげていた。柄も鍔もある、一見すると剣にみえる。
「まずはこのまま長江まででない? で、そこから西にすすみながら舟を捜すの。もしかすると丹都までいかなくても、向こう岸までのっけてくれるかも」
ふたりは見送る蔡伯昭に出立をつげると、ゆるりと北上を開始した。
昼すぎ頃、ふたりは無事長江の岸辺にたどりついた。
河口付近ともあって河幅はとてつもなく広大で、対岸は空と風景にすいこまれてまったくみえない。
琴箭はその絶景に胸をおどらせた。こんな機会でもないかぎり、まずお目にかかれはしなかったろう。
そうやって景色にみとれながらしばらくゆくと、岸にはけっこう舟がもやってあるのがわかった。だが、そのほとんどが軽舟で、とてもふたりと槽までのせることは出来そうにない。
琴箭は辛抱強く舟をさがしながら進んだ。
と、前方に桟橋があり、一艘の舟がもやってあるのが目にとまった。まあまあな大きさの舟で、帆もあり、ふたりと一頭が乗ってもなんの差しつかえもなさそうだ。すぐそばには船頭だろうか、男がぼんやりと釣り糸をたれ、舟の上にもひとり男がいる。
琴箭はニコッと月に笑みかけると、槽から降り、手綱をもってその男に近づいていった。
「ああ、いいともよ。こっちも今日は漁がさっぱりだったんだ。銭さえくれれば、その驢馬も一緒に向こうまで乗っけてってやるよ」
男の言葉に琴箭はさらに顔をほころばせる。
「ありがとう! じゃあお願いします!」
「おおい、待ってくれぇ!」
みるとひとり、おなじく旅人の風体をした男が走ってくる。
「ふぃ〜、間にあった。船頭さん、おいらものっけてってくんねえか。銭はこちらさんと同じぶん払うぜ」
船頭は一瞬喜色をみせたが、男の腰にさがった剣に目をとめるとしぶい表情となる。
「しかしなぁ······」
おなじように月塊の目もその剣に注がれている。
男は彼の視線に気づくと、見上げてにやっと笑った。
「まあ、いいじゃないか旦那。旅は道づれっていうだろう?」
微妙に長いです。
誤字を修正しました。




