琴箭、夢にて啓示をうけること②
「て、ことがあったんだけど、どう思う?」
庵のなか。
ずいぶん久方ぶりに訊ねてきていた妖、月塊をまえに、琴箭はこぼした。
夏にむけて、万物がいよいよその勢いをつけんとする時分。床に差しこむ陽も、明暗の境をはっきりときわだたせている。
月塊は饗された野草の米粥を頬張りながら、じとっとした目で案(お膳)の向かいに座す少女をみると、つぎにやはり隅にうずたかく積まれた書の山をみた。
「···私はおかしくなってない」
自覚があるのか、琴箭は無言の意にも機敏に応じる。
「···いや、とうとうその道の癖もキワまできたのかと呆れたつもりだったんだが、なるほど、そうもみえる」
蔡琴箭。
この童女と遭ってしまって、じつに二年ほどがたつのか。妖たる身にとって年月のこまかい勘定は不得手だが、だいたいあっているだろう。
しばらくみぬ間に目の前の少女は、すこしだけ成長したようだった。背も、腕も足も、わずかに伸び、髪もふたつお団子を卒業して、うしろでひとつお団子に結わえなおしてある。
「で? 南華老仙···だっけか。ふん、聞いたこたぁねえが」
そこでひとつ、ちょっと考えるようにして月はつづける。
「だいたいなんでソイツは、お前にそんな用事を押しつけやがるんだ」
その話がまともだったとして、という言葉は呑みこんでおいた。
「そんなのこっちが聞きたいわよ。でもあるとしたら······」
琴箭は間抜けな顔になった月塊に目線をあわせた。
「やっぱりアンタがいるからじゃない?」
少なくとも、あんな──恥ずかしい──夢をみたことなんていままでない。
不可思議なことがおこるとしたら、原因は一介の里娘なんかより、そもそも自体が不可思議な存在のせいだとかんがえるほうが自然だろう。
「······」
「·········」
「······行かねぇぞ」
「なんでよ!」
月塊は、はぁ? というように眉を八の字にしてこちらを見下した。うわ、すごく腹立たしい。
「なんでだぁ? どのツラさげてンな台詞はきやがる。玉まみれにされたこと、忘れたとは言わさねぇぞ」
年月の勘定は大雑把なくせに、そういう諸々はしっかりと憶えている。
妖ゆえなのか、その執念ぶかさに琴箭はあきれて溜め息をついた。
つづきを明日、投稿いたします。




