妖の月円塊、琴箭に囚われること
はじめ、それはなにかの啼き声のように感じた。まるであの中に捕らわれた妖が、口惜しさからないているのだと、そんなふうに感じた。
だか違った。
「······唸ってる?」
あきらかに吠えている。怒っているのだ。頭にきて、どうしようもなく叫んでいるのだ。それはすなわち、「奴」はあのなかで押しつぶされながらも、ピンピンしているということだ。
「──お、おい。なんの音だ?」
ズウゥゥン······ズウゥゥン······
なにやら遠くでする地鳴りのような、音というよりは震動がつたわってくる。みなはおおいにうろたえ始めた。
「······まさか」
ミシミシッ!
とうとう巨大罠が目にみえて揺らぎ、パラパラと木屑がみなの頭にふりかかった。
「だ、駄目だぁッ!」
「!」
その瞬間、琴箭はたしかにみた。巨大な筏のおもてに、円陣のような、文字だか紋様だかよくわからぬ印が、狐火のような光に浮かび上がったのを。
「いけねぇ! 出てくるぞ! みんな離れろぉ!」
メキメイメキィィイッ!
生木を割く音の直後、四方に、木片というにはあまりにも大きな塊がふりそそいだ。みなは悲鳴をあげながら頭をかかえ逃げ惑う。
琴箭の足元にも木片が大量にふりかかった。必死で飛びのいて難を逃れたが、体勢をくずして尻餅をついてしまう。
──ドシャッ。
あきらかに、自分の尻餅の音でもない、木片のおちる音でもない。地面に、何者かが二本足で降りた音が、目前の土煙のなかから聞こえた。
「······誰だァ、こんなとんでもない真似しやがったのはァ···!」