表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
殷秋史
39/403

麟解かれ、朱硯、あがなうこと③


「·········おぉ、そなた、か」

 女性の麒麟──麟の金光にはなにか傷を癒す力があるのか、あれほどの大怪我をおった麒が意識をもどし、声まではっした。

 その姿をもとめるように、ふるえる前脚をあげる。麟がその脚をやさしい手でつつむと、麒はふうっと息をついた。

「···無念だ。目が、みえぬ。だがそれでも、主のあでやかな姿ははっきりと感じとることができるぞ······」

 睦まじいふたりの様子に、琴箭はホッと息をついた。

 なるほど。これは捨て身にもなるわけよね······


『昔』

 麟がはじめて言葉をはっした。耳ではなく、心にじかにひびいてくるような。でもとても心地よい。

 麟は面をあげる暇も惜しむように、夫のいたんだ脚をやさしく撫でている。

『私はひとりの仙人に、この書物のなかへ封じ込められました。書はいくつにも写され、そのたびに、囚われていた私の心もわかれて散っていった。

 彼は永い時をかけ、それらをひとつひとつ集めてくれたのです』

「···そっか。そして最後の仕上げが、その、人間の魂魄を···」

『······悪しきことだとはわかっておりました。私に彼をとめる勇気がないばかりに。本当にごめんなさい』


 琴箭は答えに窮し、迷うように唇をかんだ。

 自分のことなら、まあ、許すっていってもあげられる。けど犠牲になってもどらない人のことは······

 だが哀しそうにまつげを伏せる麟をみるうち、琴箭は可哀想になってしまった。


「私にしたことは、もういいです。でも、もう金輪際、こんなことはやめてくれると約束してくれますか?」


麒麟たちはお互いにみつめあった。そしてふたりでかたくうなずいてみせた。

「わかった。汝に誓う。もう二度とこのようなことはせぬと。我らは深山へと帰ろう」


「·········まて」

 水をさすように背後でみじろぎする者があった。

 周朱硯が、ゆっくりと立ち上がり、手にあった役立たずの柄をゴロンと投げ捨てる。

「······忘れ物だぞ。···貴君に見放され、大義は潰えた。永らえる理もない」

「······」

 麒はじっと朱硯の様子をうかがっていたが、麟にうなずきかけると、ゆっくりとおき上がり彼に歩みよった。


「ちょっと?」

「よせ」

あわてて止めようとする琴箭を、月塊がさらに制した。

 あいかわらずどこか顔色がわるいが、それでも明瞭に断言する。


(おまえら)と違って、妖にとって約定ってのは絶対だ。それは天地がひっくり返っても疎かにはしない。まずハナからの取り決めだったんだろ」


 麒のふかい息があたる。朱硯の身体は瞬く間に玉塊へとかわった。

 ぬけでた人魂が麒の懐におさまると、残塊はたちどころに散華して滅した───



最終部(仮)は土曜日正午に更新いたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ