麟解かれ、朱硯、あがなうこと②
「麒麟! もう一体いやがったのか!」
あわてて構えをとる月塊に、その麒麟は、かぶりを横にふった。争う気はない、そういいたいらしい。
「······どけ。いまからソイツにとどめをさす。邪魔はさせねえ」
やはり麒麟は首を横にふる。
月塊はじれて一歩詰めよった。
「このおバカっ!」
「いってえッ!」
だしぬけに、右のくるぶしを固いもので思いっきりすくわれた。堪えかねてその場にうずぐまる。
「···なにしやがる! って···琴箭? オマエ」
なんと、肩を刺されて苦しんでいたはずの琴箭が鼻息もあらく、「く」の字になった柱かなにかの残骸をポイとすてて、手をぽんぽんとはたいているではないか。みるかぎり、まったく傷にはひびいてなさそうだ。
まさか重症のフリをしていたのか。
「アンタ、私をそんな風におもってるのね。そんな芸当もってないわよ、まだね」
将来おぼえる気はあるのか。
「そんなことより」琴箭はツカツカと麒麟と月の間にわってはいる。
「殺すなんて駄目! せっかくの義行を台なしにする気?」
月塊は心底わからぬ、といった顔で、口を半開いたまま、眉根をよせる。
「仙人は殺生しない! しちゃ駄目なの!」
「あぁ?」
なんとしたものか、月塊は目を見開いて琴箭をみつめる。
またひっかけているんじゃないか。そんな顔色だ。が、琴箭の瞳が真剣でゆらぐことのないのをみて、後ずさった。
「そんな······アイツはそんなこと一回も······じゃあ、いままで俺は······」
なにか衝撃をうけたように立ち尽くす月塊をひとまずおいて、琴箭はもう一体の麒麟にむきなおった。
「あのとき、夢のなかで私と話したの、ひょっとして貴女ですか?」
肯定するように麒麟はひとつうなずく。
「いま私の傷をふさいでくれたのも?」
肯定。
「······あの麒麟様がこんなことをしたの、貴女のため?」
答えはなかった。
麒麟はゆっくり膝をおると、倒れ伏しているもう一体の麒麟を愛おしそうに撫でた。
つづきを明日正午、更新いたします。




