麟解かれ、朱硯、あがなうこと
「──どうだっ、みたか······っ」
精も根もつき果てた月塊は、負け惜しみのようにそれだけひねり出すと、その場に尻から座りこんだ。正真正銘、全力をつかいはたしたのだ。
静かだった。その場にいる者はみな、ただその決着を粛然と受けとめていた。
「······くそ、まだだった」
ふかい呼吸をして、月塊はたちあがった。
「すぐ、ラクにしてやる」
おもい身体をひきずるようにして、一歩ずつ倒れ伏した麒麟のもとへと向かう。
だめだ、止めないと······
そうは思うのだが、傷の痛みと、助かったという安堵から、琴箭の声に力は宿らなかった。とても、おなじく余裕のない月塊の耳にはとどかなかったろう。
目前を、ひと粒の金光がよぎった気がした。
──?
琴箭はぎゅっと目をつぶって、また開いた。たしかに見える。
どこから。
動けるかぎりで首をまわすと、隅にころがっていた殷秋史の何巻目かが、細かな砂金のような光の粒におおわれていた。そこからどんどん湧き出しているようだ。
「殷秋史?」
殷秋史からぬけでた光は、月塊と麒麟の間にわり込むようにして、人の形をとりはじめた。
その姿はなんと──
「なんだぁ! 俺?」
月塊そのものだった。
さしもの彼もつかの間、ギョッとして身を縮めたが、すぐに気をとりなおした。
「なんだ、お前は」
光が、まるでいたずらに笑むように揺れた。
月塊の虚像はゆっくりとくずれ、またあるひとつの形へと成っていく。
ながいたてがみに美しい顔。四本の脚にすらりとした尾。その麗しい姿。まさに倒れている麒麟にそっくりだった。
ただ違うのは、その額の角は一本。麒にはない人の腕をもち、脚は四本とも霞のように先がすけて消えているということ。
そしてながい衣につつまれた、そのほっそりとした人ににた胴や面は、うつくしい女性のものだということだ。
どことなく、いまはなき朱硯の奥方様に似た感もある。
つづきを明日正午、更新いたします。




