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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
殷秋史
36/403

琴箭の功を得、月塊、本懐を成就すること⑤


 刃が書に迫る。


「朱硯ェェんッ!」


 突如麒麟が大声をはっしたかと思われた直後、神速をもって一直線に朱硯へと突っ込んだ。

 その勢いに驚いた朱硯が剣を構えなおす暇に乗じ、麒麟はその刃をたたき落とし、自らの蹄で踏み砕いた。


「······感謝しろ。今日まで世話になった礼に、いまは、命までは、獲らぬ······ッ!」

「ヒッ!」

天獣の真の怒りを前に怖れぬ者などいようか。尻餅をついた格好で朱硯はあとずさる。


 ──かかった。


 耳元に、かすかな声がとどいた。床をみる。いまだ倒れたままの少女の唇が、わずかにふるえた。

 なんだ? いま、何と?



「なんか、色々ごっちゃになって悪いけどよ······」


 背後からした別の声に麒麟はゾッとした。本能的に固くなった身を必死にしぼり、刹那、その視界の端に、迫る妖の影をとらえた。

 月塊!

 そのおそるべき狩人は、満身創痍となりながらも麒麟に劣らぬ疾さで迫っていた。

 だがこやつの術は封じた。恐れる必要など──

 足下で、月の光にも似た青白い光が明滅する。


「!」


 いつの間にか、床のかなりの部分があの忌まわしい円陣で輝いている。

 それは墨でもって描かれ、床に散乱した障害物などものともせず、少女がただ一心に描き通した願いの道。

 麒麟は信じられないといった面持ちで、ふたたび妖に目を戻す。

 その妖は拳をひきしぼる。


「とりあえず、一発受けてもらうぜッッ!」

「こッ」

「おるァァァァァァァァァあああああああァ───────────ッッッ!」


 はげしい光につつまれた拳が撃ち込まれる。



 ドズンッッ!



 衝撃が麒麟の身体をつらぬき、その余波は半壊していた殿のまるまる半分を、ごっそりと跡形もなく吹き飛ばした。

 麒麟はえぐれた地肌のうえを二、三歩後ずさると、糸が切れたようにその場へ崩れ落ちた。



つづきを明日正午、更新いたします。

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