琴箭の功を得、月塊、本懐を成就すること⑤
刃が書に迫る。
「朱硯ェェんッ!」
突如麒麟が大声をはっしたかと思われた直後、神速をもって一直線に朱硯へと突っ込んだ。
その勢いに驚いた朱硯が剣を構えなおす暇に乗じ、麒麟はその刃をたたき落とし、自らの蹄で踏み砕いた。
「······感謝しろ。今日まで世話になった礼に、いまは、命までは、獲らぬ······ッ!」
「ヒッ!」
天獣の真の怒りを前に怖れぬ者などいようか。尻餅をついた格好で朱硯はあとずさる。
──かかった。
耳元に、かすかな声がとどいた。床をみる。いまだ倒れたままの少女の唇が、わずかにふるえた。
なんだ? いま、何と?
「なんか、色々ごっちゃになって悪いけどよ······」
背後からした別の声に麒麟はゾッとした。本能的に固くなった身を必死にしぼり、刹那、その視界の端に、迫る妖の影をとらえた。
月塊!
そのおそるべき狩人は、満身創痍となりながらも麒麟に劣らぬ疾さで迫っていた。
だがこやつの術は封じた。恐れる必要など──
足下で、月の光にも似た青白い光が明滅する。
「!」
いつの間にか、床のかなりの部分があの忌まわしい円陣で輝いている。
それは墨でもって描かれ、床に散乱した障害物などものともせず、少女がただ一心に描き通した願いの道。
麒麟は信じられないといった面持ちで、ふたたび妖に目を戻す。
その妖は拳をひきしぼる。
「とりあえず、一発受けてもらうぜッッ!」
「こッ」
「おるァァァァァァァァァあああああああァ───────────ッッッ!」
はげしい光につつまれた拳が撃ち込まれる。
ドズンッッ!
衝撃が麒麟の身体をつらぬき、その余波は半壊していた殿のまるまる半分を、ごっそりと跡形もなく吹き飛ばした。
麒麟はえぐれた地肌のうえを二、三歩後ずさると、糸が切れたようにその場へ崩れ落ちた。
つづきを明日正午、更新いたします。




