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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
殷秋史
34/403

琴箭の功を得、月塊、本懐を成就すること③


 その場の視線を独り占めにして、この家の主にして游徼(ゆうきょう)の長、周朱硯(しゅうしゅけん)は足をすすめる。

「この様は? いかにすればこのようになる」


 痛撃をうけたせいなのか、麒麟の術もとけたらしい。朱硯は玉の床を踏んで容易に殿へとたどり着いた。

「······治安官さま」


 朱硯を見上げながら、琴箭はそのままの格好で息をのむ。朱硯はくるりと振り向くと、麒麟にはっきりとむかって今一度問うた。

「答えてくれ!」

「······」

麒麟は黙して応えない。


 ······奥方としてより添っていた人が、まさか妖だったなんて。動揺して当然だ。

「治安官様、これは」


「いつまでかかっている! 天獣ともあろうものが情けない!」


 ──え

 ふたたびこちらを向いた朱硯の瞳は、身がすくむほど冷たかった。ズラリと手にさげた剣を抜く。


「眼前の成果に拙速に心揺さぶられるなど、長生の者らしくもない。こうすればいいだけだろう、違うか?」

 そのまま剣先をフイと動かし、琴箭の手から小刀をはじきおとす。

「あっ」

慌てた琴箭の肩先に、剣先が食い込んだ。

「ぁぁぁッ!」


「朱硯! お主!」

「···てめェッ!」


肩を抑えて倒れこんだ琴箭を、朱硯は一瞥すらせず麒麟につげる。


「そんなに気になるのなら私が見張っておいてやる。さっさと収めてしまえ。それとも」

ふと視線にとまった殷秋史のひと巻きを無造作につかみ上げる。

「こいつを質にしたほうがやる気になるか」


「······朱硯ッッ!」


 麒麟の表情が一変した。


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