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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
石胎箴緯
313/403

天晴れ徐晃、救天の援軍をうること①

すいません。

いったん徐晃の視点となります。


 同志はおろか、天子様の一縷の望みを背負って救援の軍をもとめにきた徐晃は、はじめて若きこの身を満たす充実感をかんじながら馬を走らせていた。

 一刻でもはやく、なんとしても白波谷の親分たちをひっぱり出さねばならぬ。

 味方はといえば、信用のならぬ化物のような男とその配下しか数のそろった軍はおらず、その化物もいかな狙いか、殿(しんがり)にとどまって敵をひきつけている。突出した最前線には陛下ほか、わずかな兵をしたがえた楊彪と琴箭がいるばかり。ちょっと張済に突かれればそれですべて終わりかねないのだ。


「誰かはしらんが、ここを通りたくば通行税をおいていけ!」

「──俺は元・白波勢、楊奉兄貴の子分、徐公明なり! 兄貴と、おそれ多くも皇帝陛下の遣いとしてまいった! 韓の親分に面会したい!」


 懐かしい黄色の肌をした峡谷の岩壁をながめながら、彼は決まりきった文句を発した下っ端に、みずからの来意をつげた。





 かねて月塊が話をとおしていたうえ、若衆ではあるが徐晃はかつての仲間である。手下からこれを伝えきいた胡才のはからいにより、ただちに三頭領による合議の席がもうけられた。

 左右に李楽、胡才、正面に韓暹(かんせん)がすわる堂のなかへ、徐晃はしずかに歩みいった。


「早急な面会に感謝いたします」


 本来、皇帝の遣い──勅使である彼が礼をとる必要はない。むしろ彼が上座にたち、三人が礼をもって迎えるべきなのだが、そこをあえて徐晃は、下座で丁寧に辞儀をして韓暹(かんせん)の言葉をまった。


「お前、皇帝陛下のつかいとして参ったと大言をはいたそうだが、なんだ、月塊はいま帝室の世話になっているのか?」


 韓暹は座にどっかりとふんぞり返って問うた。


「はい。帝室に重用されています」


ふん、と韓暹はたいして関心がなさそうに口髭をいじりながら応じた。だが本心はけっしてそうではないことを徐晃は見抜いている。


「こたびは先の月塊兄貴との約定により、ぜひ親分がたに援軍としてお出ましいただきたく、まかりこしました」


「······山賊(われら)が皇帝陛下の援軍とは。勇壮なことだ」


 細面だが厳しい顔つきの李楽の疑わしそうな目が、ジロリと徐晃を睨む。


「陛下は洛陽への帰還の道中、御身をお護りする猛者をつのっておるのです」


「それは結構なことだな。だが出ていけば、あの涼州人らとやりあうことになるのだろう?」


「いいじゃないか。やろうぜ、韓の兄貴、李の兄貴」


「いやまて兄弟よ」


 表向きは、かの黄巾の残党をなのって手下をつのった韓暹は、かつて彼らがつかった呼び方で、乗り気らしい胡才を諌めた。


「我らは朝廷からは賊人とみなされているのだぞ。かりに首尾よく彼奴(きゃつ)らを追い散らしたとして、すんなり褒美にありつけようか」


「もしお味方くだされば、これまでの罪は特赦(とくしゃ)。さらに、お三方それぞれに将軍位を贈ると、朝臣の筆頭、大尉の楊文先(楊彪)殿の言葉をもらっています」


「おまえは黙っていろ、いまは俺達で話をしているのだ」


韓暹は怒りをしずかに抑えながら、威厳をしめすように若造を退ける。


「考えてもみろ。いま帝室を救けてどうなる? 名ばかり将軍だのと持ち上げられても、しょせんは朝臣どもの犬。いいように使われるか、煮て食われるか、いずれにしろロクな死に方はせんぞ。

 それよりは今までの業績をまもり、李・郭とも事をかまえずいれば、この時勢だ。この先いくらでも面白い展望がのぞめるやもしれんて」


 ──なるほど。要はこの男は、ここまでにした勢力が惜しいのだ。朝廷に帰順して、兵をすべて接収されること怖れているのだな、と徐晃は内心で読んだ。


「だが、月塊兄貴に約束したぜ。好漢として、(おとこ)(おとこ)の約定をたがえるは恥。天下の義侠の笑い草だ」

「月円塊がなんだ! この谷の総領は俺だ!」


聞き分けのない兄弟に、とうとう韓暹の声も荒いだ。


「俺はもしものことを考えて言っているんだ! あの涼州人どもにゃ、俺達も手下総動員で当たらにゃならん! 賭けに出ることになる」


「まあまあ」ふたりの間を李楽がとりなしていった。

「要は兵力にまだ不安があると、韓の兄貴はいいたいんだろ。なら兄貴、奴らにも誘いをかけてみるにゃどうかね」

「奴ら············? なるほど、それは面白い」


 韓暹はゴホン、と空咳を噛ませて座に落ちつき戻ると、直立したままの徐晃にむけていった。


「聞いてのとおりだ。俺達の兵をもってしてもまだ数の不安がある。そこでだ。お前に俺達からも遣いを頼みたい。

 ここをすこし北へいったところに今、匈奴の連中が居座っている。官軍との小競り合いになんだかんだと手を組んだりする仲だが、もしそこの左賢王・去卑(きょひ)の協力をとりつけられたなら、その時はよろこんで加勢しよう」


 徐晃はジッ、と韓暹の顔をみすえてから答える。


「わかりました。かならず兵を出させますゆえ」


 辞儀をすると、さっと身をひるがえし谷を後にしたのだった。




サブタイをちょこっと修正させていただきました。

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