東遷の銅鑼なりて、董承と徐晃、天子をすくいだすこと①
琴箭の策があたった。
李傕は東方への備えを厚くし、これによって郭汜も態度をいっそう頑なにした。張済の長安入りを遅らせるだけで、二将の亀裂をさらにひろげることにまで成功したのである。
万事の車輪は急に速さをまし、軸を軋ませて廻りはじめた。このうえは一日もはやく皇帝陛下と皇后様方をお迎えしなければならない。もはやいつ好機が訪れてもおかしくはない。いざという時に肝心の陛下がおられないでは話にもならぬのだ。
興平二(一九五)年、七月もおわりの頃。朝臣らはついに長安脱出策の決行に踏み切った。
これからは微塵の失敗も許されぬ。董承はいよいよであると気合いをいれ、親衛の兵をひきいて郿宮へと出立した。
長安をでてしばらく行った頃だった。うしろから呼ばわる者がある。董承は馬を止めて見ると、ひとりの頭を先頭に、一隊の騎馬がこちらへ追いつかんと駆けてくる。
「おぅいぃ、董将グーン!」
「······あれは徐晃とかいう」
徐晃はやっと彼に追いついて、荒い息をつく馬を褒めながら顔をあげた。彼らはずっと終南山にかくれ潜んでいたが、事がさし迫ったとして琴箭が呼びよせていたのだった。
「董将軍、ぜひ我らもお供を」
董承は徐晃以下、山賊まがいな手下たちの顔を一様にみて、眉をしかめた。
「徐よ。我々は畏れおおくも陛下をお迎えに参上するのだ。わるいがお主らは連れていけぬ」
「信用ならぬとのお思いはごもっとも。なれど陛下を御守りするなれば、数はおおいにこしたことはないでありましょう」
「ならぬ。功をあせるは軽卒ぞ」
「······は、なれど」
「くどい! 帰れ!」
董承ははき捨てると、馬にひと鞭くれて駆け去っていった。
徐晃はくやしそうにそれを見送っていたが、手下に尋ねられ、ひとつ深呼吸して気を落ち着かせる。
「どうしやす、兄貴」
「··················」
速度をました董承隊は、一気に郿宮へと駆けこんだ。
「陛下、いよいよで御座います!」
まえもっての決めのとおり、皇帝と皇后、貴人には侍女の恰好をさせて車へ御物の箱とともに隠し、伏完、穆順らは兵に扮して、ものの一刻ほどでひそかに郿城を発った。のこす者らには極力あやしまれぬようにし、気付いた者にもこれまで通りにせよと言い含めた。
思いのほか事はするすると運び、ここまではきた。なれど皇帝は病である。車を極力揺らさぬようにしなければならず、おまけに車列は五台ほどにもなったため、どうにも速度が稼げない。
董承がやきもきしながらジリジリと進んでいたときだった。
にわかに正面より土煙がたちあがり、一陣の人馬が到来するのがみてとれた。徐晃らではない。あきらかに規模がちがう。
「あれは──チッ、李傕の旗!」
間も悪くやってきたのは、李傕の増派した皇帝の護衛──もとい監視兵だった。
サブタイをなおさせていただきました。




