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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
殷秋史
28/403

月塊、窮地にたつこと


 あっといって、横倒しになるように麒麟は地上へと落下していく。そこへ一切の躊躇なく、月塊がとどめを放った。


 苦痛の声さえあげる間もなく。

 麒麟の身体は粉々となり、バラバラと四散してしまった。その名残りか、白い煌めきが夜風にさらわれ、消えていく。


「······そんな。殺し、ちゃった······」

「どうだ! 俺の願いのほうが強かっただろうが!」


ひと息おおきくすいこんだ後、月塊は天を仰いで勝ちどきの声をあげる。

「願いって、アンタ······本当にわかってなかったの?」

 まさか今までもずっと···?



『勝ち誇るにはまだはやい···』



 ぶわり。

 やおら一陣の狂風が逆まいて吹きつけ、辺りを払った。カツリ、と蹄の石をうつ音がする。


 灯りと暗がりの混じる曖昧な境から、なんと先程うち砕かれたはずの麒麟が姿を現した。

「てめェ!」

月塊はやらじと戟をひろって打ちかかる。麒はかわし、あるいは見事に蹄でさばくが、隙をみせたところを拳によってたやすく穿たれ、胸に大穴をあけられて果てた。


 だが、

「!」


 カツリ。右手の闇から一頭。さらに、左手の闇のなかからももう一頭、寸分たがわぬ麒麟が悠然とあらわれた。

「ッ···分身ッ」

 こんどは月塊が悔しさに唇をかみしめる。


 右手の麒麟が口を開いた。

「見えたか、そなたの底も」

「あぁ? どういう意味だ!」

「言のとおり」左手の麒麟が返答をうつ。

「ほざいてろ!」


 月塊はしゃにむに突きかかる。麒麟の蹄はたちどころに妖気の印にまみれるが、もう麒麟は気にもとめなかった。

「くたばれ!」

ギラリと麒麟の眼が見開かれる。その瞬間、月塊の横面を強烈な足蹴りが見舞った。もう一方の麒麟が突如として攻めかかったのだ。

「······チクショ···ッ」

 そうとう効いたのか、吹き飛ばされた月塊は、おきあがるのに難渋している。


「あの印──そうか······!」

 ひらめいた琴箭は、いそいで机へとって返した。



台詞を一部、修正させていただきました。

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