美髯公、まかりこすこと④
護り手たる関雲長の許しがでた。一行はさっそく祭壇の用意にかかる。
祭壇に獣をそなえ、その上に萊萊から拾うよういわれた玉をのせ、まわりに乾飯をちらす。香草をもして火を焚き、それぞれの集団の代表者が、織り込まれた席にすわって頭をたれた。
祭官役をかってでた萊萊が先頭で現地の言語による祈祷の祝詞をとなえ、最後に甲高い奇声をあげて祭祀はおわった。
なんだか冗談のようにみえるかもしれないが、なにせ蛮夷の習俗だ。こちらに馴染みはない以上、現地民の萊萊にたよるしかなく、その萊萊をして大真面目に行うものだから、こちらも真摯にとりくまねばならぬ。
祭祀がおわっても、とりたてて目ぼしい変化は起きないようだった。ただ、祠のなかに安置された異形の神様の石像に、ほんのり温かみが増したような気がしないでもない。あくまでも心持ち、ではあるが。
「さて、じゃあ次の場所へ移動だな。あとひと柱でおなじことをすりゃあ、この南山を抜けられるってわけだ」
単福がすわっていた席をぐにぐにさせながら言った。
「エ、なに言ってんダ。あとふた柱ダ」
「え?」
萊萊の返事に琴箭は首をかしげた。
「神様はみんなでふた柱でしょ? たしか貴女のところの長もそう······」
萊萊は琴箭をみあげ、やれやれ人はしょうがないなといった風にため息をついた。
「南山の神様は三柱だ。ひと柱がすんだんだからのこりはふた柱にきまってるだロー?」
琴箭と単福は顔を見合わせる。萊萊がかまわず木馬のほうへたらたら歩くのを見送って、ふたりは確認をしあった。
「ふた柱ってそう言ったわよね?」
「ああ言った。俺もたしかに憶えてる」
自分の記憶のなかでもたしかにそうなっている。ささいな──というほどには軽くはない重要な点ではあるのだが、よその神様に奇祭でもって祈りをとどけなければ、という時点で頭がうごかなくなったのやもしれぬ──ことゆえ聞き違ったのだろうか。あるいは長が間違ったのか。歳のせいでうっかりしたとか······
「長が昔のことで間違うもんカ」
萊萊はぷりぷり怒った。
「神様は三柱! 大昔からそう決まってるんだからそうなノ! つべこべ言わす行ク!」
なんだか怠惰を戒められ、説教をくったみたいになった。仕方ない。案内人が言うのだからそうなのだろう。とりあえず納めて先をいそぐことにしよう。
「で、俺達はもう行くけど、旦那はどうする?」
単福は剣を佩きながら雲長に問う。
「儂も同道してかまわぬか」
「え? それはいいですが······でもここの護りは?」
「どうも儂はお役御免のようでな、天の声も聞こえなくなった。このまま目が醒めるのを待つのも退屈であろうゆえ、しばし同道したい。無論、いつ帰ってしまうかわからぬ身ではあるが」
どうやら関雲長殿は、いよいよここが夢のなかだと結論づけたようだった。
「そいつはぁいいや。じゃ、旦那の目が醒めるまでぶらぶら散歩と洒落込もう」
こうして一行は雲長をくわえ、山を下っていった。
のこす神域はあとふたつ。そこを抜ければ、次に待つのは中山域、さらにそこを抜ければやっと北山への通行が許されるのだ。
さきはまだまだ多難である。
200部目。
手前の投稿確認ページでも3トラック目がでてきました。
また埋めつくすぞ〜、オー。




