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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
山海魔経
201/403

美髯公、まかりこすこと④


 護り手たる関雲長の許しがでた。一行はさっそく祭壇の用意にかかる。


 祭壇に獣をそなえ、その上に萊萊から拾うよういわれた玉をのせ、まわりに乾飯をちらす。香草をもして火を焚き、それぞれの集団の代表者が、織り込まれた(こも)にすわって頭をたれた。

 祭官役をかってでた萊萊が先頭で現地の言語による祈祷の祝詞(のりと)をとなえ、最後に甲高い奇声をあげて祭祀はおわった。


 なんだか冗談のようにみえるかもしれないが、なにせ蛮夷の習俗だ。こちらに馴染みはない以上、現地民の萊萊にたよるしかなく、その萊萊をして大真面目に行うものだから、こちらも真摯(しんし)にとりくまねばならぬ。


 祭祀がおわっても、とりたてて目ぼしい変化は起きないようだった。ただ、祠のなかに安置された異形の神様の石像に、ほんのり温かみが増したような気がしないでもない。あくまでも心持ち、ではあるが。


「さて、じゃあ次の場所へ移動だな。あとひと柱でおなじことをすりゃあ、この南山を抜けられるってわけだ」

 単福がすわっていた席をぐにぐにさせながら言った。

「エ、なに言ってんダ。あとふた柱ダ」

「え?」


萊萊の返事に琴箭は首をかしげた。


「神様はみんなでふた柱でしょ? たしか貴女のところの長もそう······」


萊萊は琴箭をみあげ、やれやれ人はしょうがないなといった風にため息をついた。


「南山の神様は三柱だ。ひと柱がすんだんだからのこりはふた柱にきまってるだロー?」


 琴箭と単福は顔を見合わせる。萊萊がかまわず木馬のほうへたらたら歩くのを見送って、ふたりは確認をしあった。

「ふた柱ってそう言ったわよね?」

「ああ言った。俺もたしかに憶えてる」


 自分の記憶のなかでもたしかにそうなっている。ささいな──というほどには軽くはない重要な点ではあるのだが、よその神様に奇祭でもって祈りをとどけなければ、という時点で頭がうごかなくなったのやもしれぬ──ことゆえ聞き違ったのだろうか。あるいは長が間違ったのか。歳のせいでうっかりしたとか······


「長が昔のことで間違うもんカ」

萊萊はぷりぷり怒った。

「神様は三柱! 大昔からそう決まってるんだからそうなノ! つべこべ言わす行ク!」


 なんだか怠惰を戒められ、説教をくったみたいになった。仕方ない。案内人が言うのだからそうなのだろう。とりあえず納めて先をいそぐことにしよう。


「で、俺達はもう行くけど、旦那はどうする?」

 単福は剣を()きながら雲長に問う。

「儂も同道してかまわぬか」

「え? それはいいですが······でもここの護りは?」

「どうも儂はお役御免のようでな、天の声も聞こえなくなった。このまま目が醒めるのを待つのも退屈であろうゆえ、しばし同道したい。無論、いつ帰ってしまうかわからぬ身ではあるが」


どうやら関雲長殿は、いよいよここが夢のなかだと結論づけたようだった。

「そいつはぁいいや。じゃ、旦那の目が醒めるまでぶらぶら散歩と洒落込もう」


 こうして一行は雲長をくわえ、山を下っていった。

 のこす神域はあとふたつ。そこを抜ければ、次に待つのは中山域、さらにそこを抜ければやっと北山への通行が許されるのだ。

 さきはまだまだ多難である。



200部目。

手前の投稿確認ページでも3トラック目がでてきました。

また埋めつくすぞ〜、オー。

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