琴箭、殷秋史をよむこと③
まったく面妖な光景だ。
黄金色の海のうえに、ただひとつ、まるで鳥籠のように木で組まれた箱が、ぽつんと置かれていた。
そのなかに誰かいた。
よくみると月塊ではないか。
「なにやってんの、アンタ。こんなところで」
立ち上がることさえ難しそうな狭い檻のまえでたちどまり、琴箭は声をかけた。
「しょうがねえだろ。出れねえんだよ」
背を向けたまま、ふてくされたように月塊は答える。
「···アンタ、死んだってきいたんだけど」
「俺が? ハッ、んなわけあるか」
そこでやっと気づいた。
──あ、これ夢だわ。
と、同時に驚愕した。
「なんてこと······そんな」
「······」
「ワタシガ、ショヲマエニシテ、ネオチシタ?」
「衝撃うけるとこそこかよ」
琴箭はフッと息をつくと、彼にあわせるようにして、檻に背をあずけて腰を下ろした。
「ま、いいか。夢だからアンタにまた会えたんだもん。しばらく付き合ったげる」
フン、と月塊は鼻をならした。
「そんな、余計な世話やいてる場合か? さっさと起きて憧れの書とよろしくやってろ」
琴箭はむくれて、肩越しに月塊を睨めつける。
まったく、夢の中でさえ憎たらしいわね、コイツ。
「いっとくけどね、私、別に書の亡者ってわけじゃないからね。そりや、書物は好きよ? でもそれなりのわけだってあるの」
「···親父の役に立つとか、そういうことだろ」
あれ、こいつにこんな話したっけ。琴箭は心のなかで小首をかしげたが、かまわず続けた。
「それもあるわ。でも、それでもまだ半分」
立ち上がり、誇るように、琴箭はおおきく両手をひろげてみせる。
「私はね、偉大な歴史書の作り手に名を連ねるの」
「······」
はじめて月塊がこちらに顔を向けた。
「私はすべての王朝を網羅した史書をつくる!」




