表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
殷秋史
2/403

蔡のお嬢、妖を捕らえんとす

なんとなく中華風な、三國時代なんちゃってこぼれ話っぽいものです。

ので、どうぞご容赦を。


 ──それは昔々。いつかほんとうにあったような時代、あったような場所。

 世界を意味する「天下」が、その、広大ながらも、すべて大陸の一角にすぎなかった頃。

 後の時代に、三國、と称される時代の、ほんの前夜のはなし。





 蔡琴箭(さいきんせん)は潜めていた身をそっとおこした。もう大丈夫、見咎められることはないだろう。

 時刻はとうに真夜中にちかい。墨を流したように真っ暗な空にはやや満ちかけた月が煌々と輝き、ときおり思い出したように草木が風に揺られ、とおく音をたてる。


 琴箭、齢とって十。

 麗しい黒髪を左右にわけ、両端でお団子に結わえている。

 額はきりそろえた前髪にかくれ、そのしたには、優美な眉、好奇心のつよそうな瞳が輝き、あたたかな頬はほんのりと赤くいろづいている。

 ちいさな身体を幾重にか着物でつつみ、上着の腰元は、お気に入りの帯で結わえてある。下もふっくらとした()であたたかくし、足元にはすこしだけきつくなってきた靴。どれもくたびれてはきたが、大切に手入れをしてきたものだ。


 まるで警告するように、また風がざあっと木々をふるわせる。おもわず身震いして、着物の衿をあわせた。

 早春、南方の呉にほどちかいとはいえ、ましてやこんな時分だ。さすがに寒い。


 そっと立ち上がって、遠くに揺れる松明の火をみやる。あまり動いていないところからみると、まださしたる動きはないらしい。

 琴箭はこっそりと抜けてきた橋をふり返った。こちらもとくに異常はなさそうだ。


「絶対みてやるんだから、(あやかし)が罠にかかるとこ」

 だってその罠──いや、策を考えたの、私だもん。なのに仲間はずれなんて、納得いかない!



 いわく、「人を石にかえる妖がでた」

そんな噂が近隣の里々からつたわってきたのは、ここ半年のことだった。

 その妖にみこまれたものは、みな、身体が硬直し、石へと変じるという。すべては夜、人々が寝静まったころに静かにおこり、終わるのだと。


 はじめはかなり遠くのほうからの被害が、なんとなく噂づたいにきこえてきた程度だった。

 だが、ついに三月前、隣の里から被害者がでたという報せがきた。あわてた里長たちは、至急、対策をたてることを余儀なくされた。


 幸いにも、この里にはよそにない強みがあった。たまたま村に、はるか都から難を逃れてきた偉い学者先生がいたのだ。

 名を蔡伯昭。

 皇帝にもお仕えしたことがあるという、それはもう、たいへんな名士だ。

 村人はこぞって、外れにある庵へと参じたのだった。ところが、


「父上ですか? なんでも珍しい書がみつかったとかで、留守にしておりますが」


戸口で迎えた琴箭がそう応じると、みな、天をあおいだ。

「なんたることだ。よりによってこんな時に······」

 みな、先生が一度旅にでるとそうは帰ってこぬことを知っていた。

 いったいどうすればよいのか。即席の話し合いがその場でもたれたが、ああだこうだ言うばかりで、いっこうに埒があかない。


 頭をかかえて押し黙る一同に、みかねた琴箭は声をかけた。


「あの、父の代わり──というとおこがましいですが、私がやってみても良いですか?」



読んで下さいまして、ありがとうございました。

細々とやっていきます。


ごめんなさい。計算が間違ってました。琴箭の歳を十歳に変更させてください、


表記を修正。「褲」はズボンのことです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ