琴箭、殷秋史をよむこと②
殷秋史ははるか古代、はじまりの王朝といわれる國の歴史、さらにその前、神代もすこしかじった歴史の書だ。
本来は特殊な古代の言語で記されていたはずだが、幸か不幸か、この書は昔、有志がわざわざ訳して遺してくれたものなので、琴箭が読むにもまったくの支障はなかった。
琴箭は夢中になって読み、そして違うことなく、一字一句を竹簡に写していった。
書は全部で五巻からなる代物で、まとまりを意識してか、やや欲張り気味の太巻きだった。これでは重さもちょっとしたものになるだろう。急事のさい、持ち出すのに困るかもしれない。
──どうしたことだろう。
二巻目にかかった頃からだった。琴箭は筆に重さを感じはじめた。いや、筆だけではない。
なに? なんだか、頭まで重い······ような······
三巻目にさしかかろうという時、とうとう辺りが暗くなってきた。あんなに早くからお邪魔していたというのに、なんてこと。
戸が開いて、下女が灯りをもって入ってきた。それを燭台に移してくれる。
琴箭は頭をあげ、お礼をいった。
そこで彼女の意識は途絶えた。
「ん···ここは?」
ゆっくりと瞼をあける。いつのまにか、見知らぬ草原にいた。
鼻先を、黄金色の草葉がくすぐってくる。あまりにむずむずさせるので、おもわず琴箭は笑ってしまった。
むっくりと起き上がる。空は高く晴れ渡り、辺りは一面波うつ金の原。よくみると稲穂だった。
その見事になった穂の先をなでながら、琴箭は歩きはじめた。
不思議なことに、風景はどんどんと後ろへ過ぎていき、見る間に移り変わっていく。そのすべてが、見たことがあるような、それでいてどこか違うような気がした。
しばらくいくと、前方になにか異質なものが見え始めた。
「あれは······檻?」




