妖怪、正体をあらわすこと③
ひたひたひた。
静寂に、ひそやかなふたりの足音が染みいる。
周朱硯のすむ邸は、游侠の役所からほどよい距離をとって建っている。
造り自体はなかなかなものだが、本人の豪奢を好まぬ性格が反映して、家の内は質素にととのえられ、それがかえって、どこか重厚な格調をさえ感じさせた。
灯りをたずさえた下女をさきにたたせ、奥方も、庭木の陰からかくれては出ながらして、置石のうえをあゆむ。
「ご苦労様」
部屋の前まできたところで、奥方は下女から灯りをうけとって、おやすみをいって下がらせた。衣の裾をしゅるりとさせ、あけた観音開きの扉の間に身体をすべりこませた。
「ごめんなさいね、きゅうに来客があったものだから」
そう弁解を口にしながら、灯りを卓のうえにあった燭台にうつした。部屋のなかがほのかに明るみを増す。
と、同時に、うーうー、となにかが唸るような、訴えるような痛切な音がきこえはじめた。
奥方がゆっくりと灯りをさしむける。
人間だった。
五人ばかりの人間が、床に座った格好のまま、口のあたりまで石にのみこまれているではないか。
少年から成人女性までと年格好はばらばらではあったが、みな歳はわかい。それらがあたかも、溺れまいと水面からなんとか顔をだすようにして、呻いていた。
「···あら、目が醒めていらっしゃったの。そうでしょう? 特別に選ったかいがあったわね」
いったい誰に応えているものか、奥方はまるで独り言のように涼しげな笑い声をもらし、五人のまえにたった。
静かにひとつすいこむと、その男女にむかって、ふうっと、なにやらキラキラと細かな翠色の光が宿った息を吹きかけた。すると五人はあっという間に声を発することもできなくなり、凍てつくようにして、そのまま灰色の石に完全に呑み込まれてしまった。
パキッ!
そのなかのひとつの石塊が、音をたてて弾けると、石片をバラバラと床に落としながら、緑白色の塊へと変じた。
奥方はニヤリと笑むと、袂から鉄扇をとりだして、それをその塊へとさしむける。
と、その胸元のあたりから、青白い焔のような眩い光が抜け出、奥方のもつ鉄扇に導かれるようにして近づいて、そのままおおきく開けられた奥方の口のなかへすうっと消えていった。
ふうっ······奥方は満足そうに息をつくと、石の塊となりはてたよっつをみて、形のよい眉をしかめた。
「···そうね。若いほうがよき魂の見込みはあれど、さりとて育ちきっていないこともおおいものねえ。どうしても無駄はおおいわ」
さて。
奥方は歩をすすめ、石くれのいくつかを邪魔そうに転がすと、灯火をほのかに照り返す綠白色の塊のまえに膝をつく。
「これは小さくしておかなければね。こんなにおおきな玉、人界にあったら混乱のもとだもの」
──カチーン、カチーン。
静寂に、なにか硬いものを砕く音が、しばらくの間ひびいていた。




