琴箭、幻の書物を所望すること③
「大変にご無礼なのは重々承知のうえで、お願い申し上げます! なにとぞ治安官様のお家に伝わるという幻の書、『殷秋史』を読ませてくださいませ!」
なにをいうのかとハラハラしていた里の者は、ギョッとして縮みあがった。
「こ! これ、嬢ちゃん! いくらなんでもあつかましい!」
さすがに代表が琴箭を叱り、つぎに一堂は、治安官様の反応をおそるおそるうかがう。
周治安官はなんとしたものか、驚き半々嬉しさ半々といった様子で、頬杖をついた。
「これは······いったいどこから聞きいれたのかはわからぬが、よく知っているな。
たしかにあれは我が家の宝として伝わっているが──まあ、こういってはなんだが、良いのか? 真偽のほども定かではないものだぞ? しかも写しだ」
「もちろんでございます」
「······うーむ、しかしな」
治安官は興味深そうに琴箭をみつめながら、なにごとか考え込む素振りをみせる。と、
「良いではありませぬか。ケチケチせず、みせておあげなさいな」
はじめて奥方様が口を開いた。たしなめるように夫をみると、今度はどこか慈しむようなその目を、かしこまる琴箭に注いだ。
「幼子の身でこれ程の大功をたてたのです。褒美だとおもって······ね?」
「ん? ······ハッハッハ、まったくそなたには敵わぬな。まあ、よかろう。たしかに褒美としては安いものだ。もちろん、里の者らにも褒美はとらすぞ。用意させるゆえ、持って帰るがよい」
太っ腹な周治安官の言に、一行は喜びつつ、そろって平伏した。




