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【完結】月琴伝  作者: 雲野 蜻蛉
桃園楼
106/403

曹隊、妖異にふれること③


「とにかく、このままでは不味いですぞ! なんとかせねば!」


 副将は剣を抜くと、崩れかけた兵の士気をたて直すべく声をはり上げる。

「距離をとれ! 矢だ! ありったけ足にくらわせろ! 動けねばどうということはない!」


「弓隊! 矢をつがえッ!」


 上将の号令で勇気をとり戻した漢軍は、いっせいに矢を、その不気味極まるモノ──もはや人でないことは明らかである──の足元めがけ、ぶっ放した。

 あっという間に三体ほどの進行を止めることに成功する。だが──



 ウォン!



 暗中を回転する槍が唸りをあげて、前方にいた兵を軒並みなぎ倒す。さらには、足元にあった岩や(つぶて)を手当たり次第にひっつかみ、なげ始めた。


 闇のなか、矢をも凌駕する突貫力をもった小物なぞ飛ばされてはたまらない。被害はあっという間に拡大した。


「な、なんと······」


副将はすっかり青ざめ、まさに悪夢をみるような面でただ呆然とするしかない。

 そうこうするうちにも、まだ歩行が自由な十体ほどがジワジワと本陣に迫ってくる。孟徳も覚悟をきめ、刃を抜き放った、そのとき。



 地鳴りとともに、なにかが賊兵の真上から落下した。


 はじめは大岩でも降ってきたのかと皆息を呑んだほど、その衝撃は凄まじいものであった。

 だが味方にはいっさい被害がない。あらためて目を凝らす孟徳らは、そこで信じられないものをみる。


 たったひとりの、まだ少年ともみまごうほどの体格の男が、あの怪力無双を誇った怪物を片足で踏んまえていた。その足元からは不思議なゆらめきをともなう光が立ち上っている。さらには反撃とばかり打ち込まれた戟の一打を、剣のような獲物で事もなげに受け止めたではないか。


「っぱりな······」


「く、口をきいた······?」


「······とうとう······とうとう見つけたぜえ! 藍越乙さんよおッ!」


 月塊は興奮と憤怒でかっと見開いた目を、孟徳らにむけた。口は訳のわからなくなった感情を表すかのように、不気味にも笑みに縁どられている。その鬼気迫る表情に全員が総毛だった。


 突如乱入してきたその存在が助けとなるかどうか判別もつかぬうちに、怪物どもがいっせいに襲いかかる。その少年をあっという間に腕の内に呑みこんだ。

 ズタズタにされた──誰もがそう思った。

 だがはき飛ばされたその者は、事もなげに宙返りして体勢をたてなおす。


「〜〜〜ッ痛ぇーッ······たかが屍人形風情がよっ! とはいえ、さすがにこりゃキツいな」

唖然とする漢軍を尻目にキョロキョロと辺りを見回した月塊は、天幕の前で燃ゆる松明の火をに目をつけるとそちらへと走る。


「火だ!」

 駆けながら月塊は孟徳らにむけて叫ぶ。


「! 火矢だッ! 準備せよ!」


月塊は松明のなかから燃え盛る薪を掴みだすと、ただちにとって返す。


 侵攻を再開させようとする賊兵のまん真ん中に飛びこみ、突き出される獲物を受けては避けしながら、左手に持った薪を相手に押しつけた。

 するとなんとしたことか、その人非ざるモノどもはたちどころに燻りはじめ、炎に包まれた。ただそれでも敵を襲う手を止めようとはせず、その身を炎に呑まれながらも、動きを止めることはない。その恐ろしい光景に、さしもの孟徳も心胆が凍りつくおもいであった。


「放てェッッッ!」


 号令一下、四方八方から紅き輝きをもった矢が放たれる。察してとび退いた月塊のいた間を埋めるかのように殺到し、賊兵どもは余すところなく業火に包まれた。



ありがとうございました。

次回は火曜日となります。

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