曹隊、妖異にふれること②
深夜。
漢陣内ににわかに銅羅の音が鳴り渡った。
「敵襲ーッ! 敵襲ーッ!」
そら来たと孟徳は装具をかため、天幕をとび出した。
「やはり来たぞ! 数は?」
あらかじめ陣の外周部でやすんでいた副将に訊ねかける。
「いまだ不明ですが······なぁに、備えに怠りはござらぬ!」
彼の言うとおり、備えは万全であった。兵たちもまだまだ元気いっぱいで、ちょっとやそっとの奇襲で遅れをとるはずなどない。
そのはずであった。
異様な感覚が彼らを包んだのは、それからしばらくたってのことだ。大将のもとに駆け込んできた物見が伝えた、あり得べからざる事実を耳にした時からだった。
「賊軍の数を把握! 数は十三! みな徒步にて進んでまいります!」
「なにぃ?」
副将は不満げに唸って立ちあがった。
「たった十三だと? しかも馬にも乗らぬ、そのような者どもに何故かように時を要するのだ!」
「は······それが、その······奴ら、斬っても突いてもいっこうに堪えませぬ。力も並の兵とは思えぬほどで」
「馬鹿者! 決死隊とはそういうものだ! 嘗めてかからず、数で一気に押し潰すのだ!」
「は!」
物見から伝令へと忙しないその兵は前線に飛んで返る。しかし、またすぐに戻ってきた。その顔は唖然とし、いまだ我が目に見たものを信じられぬといった風で、松明に照らされていながらも蒼白となっているのがわかった。
「······駄目です! 賊兵はいまだ健在! 我が軍に被害がふえています!」
「なんだと!」
副将は激怒してその兵の胸ぐらを絞りあげる。
「貴様、なんと伝えた! 部将どもはいったい何を······ええい、もうよいッ!」
兵を投げ捨てると、副将は孟徳にむき直る。
「ワシが行って参る!」
「まあ待ちたまえ」
孟徳はカッカとするその副将をなだめるように、床几から腰をあげた。
「貴殿までそう頭に血がのぼっていては、だせる力も出せなくなりますぞ。ここは共にいこう」
「おお、心得た!」
二将が陣頭にたってみると、なるほど、白装束の一団が、周りを十重二十重に囲む漢の兵を意にも介さず、じわじわと進んできていた。
「む······なんなのだ、アレは」
異質なのは、その歩みの速度からしてそうだった。
遅い。とても命はやる戦場でのこととは思えぬ。あれではまるで、午後の庭を散策しているかのようてはないか。げんにこちらの放った矢はほぼ命中している。賊兵みな、針鼠のように矢を全身からはやしているのだ。
にもかかわらず、その賊兵どもに怯む様子はいささかもみえず、ただ異様なまでの静寂をもって、手にもった剣や槍といったまとまりのない得物を振るった。そのたびに、こちらの兵が、まるで塵のごとくに掃き飛ばされていく。
「······信じられぬ」
副将もただ愕然として、その様をみるのだった。
中国的ホラーといえば······
昔観てからちょっとトラウマ。
明日、つづきを更新いたします。
一部よみがなを追加しました。




