琴箭、幻の書物を所望すること②
代表はかしこまって言った。
「おそれながら申し上げます。こうは見えましても、不可思議な力で大木を粉々にするところを里のものらがみております」
周朱硯は興味をひかれたように髭をなでた。
「ほぅ? では、そのような剛力の持ち主を、一介の農夫であるお前たちがいかにして捕らえたのだ?」
「それはこちらにおります──」
いいながら、代表は振り返り、琴箭にこいこいをした。
「蔡琴箭が知恵をこらしました」
琴箭はその場でまた、地に平伏した。
しばらく沈黙があった。おそらくは、本当かどうか疑われているのだろう。
無理もない。十歳そこそこの少女が、どうやったらそんな荒事をやれたというのか。いま冷静にかんがえてみると、まったく運がよかったのだ。
「······いま、蔡、といったか?」
ややあって周治安官は、ふと思いついたように口にした。
「すこし前、都で議郞を務められた蔡伯昭殿がこちらに逃れてこられたと聞いたことがあるが······」
琴箭はもういちど頭を下げていった。
「父にございます」
「なるほど」納得がいったというように、治安官は座に座りなおした。
「あの大学者の娘御か。ならばわからぬでもない」
そういって、周治安官は、チラリと奥方のほうへ目をむけた。奥方も感心したというように、うんうんとうなずいた。
──いい空気。いまならッ···
「おそれながら、申し上げます」
琴箭はままよとばかり、勢いこんで頭を下げ、声をおおきくしていった。
「治安官様にお願い事があって参りました!」




