87 白のドラゴン
ギャワン!
また大きな鳴き声が響いた。
「あっ、あれは!」
一気に姿が見えてきた。
「白のドラゴン!」
広げていた翼を身体に折りたたみ、物凄い速度で急降下してきた!
そして地表すれすれで身体を起こし、大きな翼をばたつかせ急停止した!
凄まじい突風が巻き起こる!
「きゃぁー!」
サリヤが吹き飛ばされた!
アレンはとっさにジャンプし、サリヤの足首をつかんだがアレン自身も舞い上がった!
「うわぁ!」
そのアレンの足首をアクロスは片手でつかんだ!
もう片手は岩を抱えている!
ギルは吹き飛ばされ、身体ごと岩の扉に張り付ていた。
着地したドラゴンは羽ばたくをやめ、大きな翼を折りたたんだ。
ドサッ、ドサッ
途端に空中にいたサリヤとアレンは、地面に落ちた。
「このクソが!危うく酸に飛び込むとこだったじゃねえか!」
アレンは背中の剣を抜いた!
「くたばりやがれ!このギャワン野郎!」
アレンは瞬時に移動し、ドラゴンの首元へ剣を振り下ろした!
「待って!」
ピタッ
あと数センチのところで、アレンは剣を止めた。
空中にいたアレンは、剣を持ったまま地面に降りた。
「なんだギル、どうして止める」
「アレンさん、このドラゴンは、おそらく敵ではありません」
「なんだと!」
「神の使いですよ、このドラゴン」
「ちっ!また神か、」
アクロスは斧を持ったまま、白いドラゴンに近づいた。
「言われてみれば、闘気はあるが殺気が無いな」
サリヤは白いドラゴンの顔を見た。
「ねえ、この子、もしかしてまだ子供じゃない?」
「きっとそうです。ドラゴンにしてはサイズが小さい」
「この大きさで小さいとか。ギル、マジで言ってんのか?」
サリヤは、ドラゴンの鼻先へ近寄った。
「おい、サリヤ!危ねえぞ!」
「大丈夫よ、」
サリヤは、白いドラゴンの顔を優しくなでた。
グルルル
「ほら、こんなに大人しいわよ」
気持ち良かったのか、白いドラゴンは目を閉じた。
「アレン、剣を納めたらどうだ」
「ちっ、」
アクロスに言われ、アレンはシブシブ剣を背中に納めた。
途端に白いドラゴンは目を開け、アレンに顔を向けた。
そして、鼻を近づけアレンを匂い始めた。
「おっ、おい、なんだよ・・・」
「アレン、あんた臭いんじゃない?」
「変なこと言うなよ、サリヤ」
白いドラゴンは、アレンのお腹のあたりを集中的に匂っている。
そして、
ギャワン!
大きな声で鳴いた!
「なっ、なんだよ、一体・・・」
白いドラゴンは、アレンをガン見している。
「あっ!もしかして、」
「なんだギル、なんか気付いたのか?」
「ドラゴンオーブですよ!アレンさん、鎧の中にドラゴンオーブ入れてますよね、」
アレンはドラゴンオーブを懐から取り出した。
「こいつか?」
ドラゴンオーブを見た白いドラゴンは、地面にひれ伏すような低い姿勢になった。
「やっぱり、」
「この子はアレンじゃなく、ドラゴンオーブを見てたのね」
「アレンさん。この白いドラゴン、ソーテラは、ドラゴンオーブを持つ者の命令を聞く神のしもべではないかと、」
「まじか、」
「ええ、たぶん」
アクロスが前へ出てきた。
「このソーテラに乗って、この島を脱出する。つまり、そういうことだな」
「そういうことです。これこそが、神の島を抜け出る答えだったんですよ」
偶然にも答えを見つけ出したアレンのことはさておき、3人は酸の道を戻らなくてよいことに安堵した。
「ん?ちょ、ちょっと待てよ!」
「どうしたアレン、」
「こいつに乗るだと?」
「そうだ。空を飛ぶしか、ここからの脱出方法はないぞ。まさか、また酸の道を走りたいわけじゃないよな?」
「そりゃ、そうだが・・・けどよ、他にねえのか?」
「ちなみに満月のシュバージは、今から180年後にまた起こりますが、それまでここで待ちますか?」
「長生きしなきゃねー、アレン」
「・・・うっ、うるせえよ、」
「アレン、そもそもここじゃ食べる物がないぞ」
「じゃ、あのじじいは、どうやって生きてたんだよ」
「アレンさん、忘れたんですか?」
「なんだよ、ギル」
「呪いですよ、賢者にかけられた不死の呪い。何も食べなくても死なないのは、きっとそのためです」
アレンは、ため息交じりにソーテラを見た。
ソーテラは、相変わらずアレンだけを見ている。
「アレン、この子は待っているのよ。あなたからの言葉を」
アクロスは、アレンの背中をポンと叩いた。
「いい加減腹をくくったらどうだ」
「・・・」
ギルは、低くなったソーテラの首元へまたがった。
「アレンさん!羽毛がフカフカですよ!これは気持ちいいー、」
(いつの間にか乗ってやがる・・・)
アクロスもソーテラに跨った。
「おー、これは乗りやすいぞ。見た目より安定している」
「あたしも!」
アクロスはサリヤに向けて手を出し、サリヤを引き上げた。
「ほんとだ!フカフカで気持ちいいー!この子サイコーだよ、」
「おっ、お前ら先にいけよ・・・おっ、俺は後からでいいから・・・」
「ちょっとアレン、なに駄々っ子みたいになってんの!」
「そうですよ、アレンさんがドラゴンオーブを持ってるんですから、」
「そうだぞ。お前がこなきゃ話しが進まないだろ」
「アレン、早く!」
サリヤは、アレンに向けて手を出した。
「おっ、お前の助けなんて借りなくても、乗れるぜ・・・」
「じゃあ、さっさと乗ってよね、」
足が震えてきた。
「もしかして、震えてる?」
「うっせー!あー、もうヤケクソだ!」
アレンはジャンプし、ソーテラに飛び乗った。
ギャワン、
「ギャワンじゃねぇーっつの!」
「さあ、アレン、この子に言って。私達の行先をね」
ソーテラは首を真後ろへぐっと向け、アレンをガン見した。
「ウ、ウォルタ城・・・」
「ちっさ、声ちっさ」
プっと、ギルが噴出した。
後ろからアクロスの失笑が聞こえたアレンは、大きく息を吸った!
「ウォルタ城へ行けーっての!」
ギャワン!
ソーテラは、バッっと大きな白い翼を広げた!
そして、バサッ、バサッっと羽ばたき始めた!
「うわぁ!」
砂埃が舞い上がる!
少しずつ、ソーテラの足が地面から離れていった。
「おお!」
「凄いわ!あたし達空中に浮いてる!」
何も言わないアレンは、すでに固く目を閉じていた。
「ギル、」
「なっ、なんですか、アクロスさん」
アクロスは舞い上がる砂埃の中、少しづつ離れていく地面にある古文書を指さした。
「いいのか、あれ」
「ええ、いいんですよ。集めた4冊も、神の島へ渡るときに荷物ごと置いてきちゃいましたしね」
「そうか。ならいいんだが、」
「命懸けで手にいれました。でも、もう僕達には必要ありません」
アクロスは、小さくため息をついた。
「なんだか、ちょっと寂しい気もするな」
「アクロスさん、時は流れています。決して留まることはない。また新しい何かが、きっと僕達を待ってますよ」
「それがいい事だと、心から願ってるよ」
「族長!急報です!」
「何事だ、」
地の古文書を読んでいたいたハザードは、パタンと閉じた。
「我らがいた神の島付近に、白いドラゴンが出現しました!」
「なんだと!」
ハザードは、飛び出すように甲板へ急いだ。
「まだ見えるか!」
「いえ、もうどこかへ飛び去った模様です」
男はハザードに、単眼望遠鏡を手渡した。
そのレンズには、青い空と白い雲しか見えなかった。
「白いドラゴンか・・・」
「神の使いと言われておりますぞ、若」
「じい、奴らが召喚したというのか?」
「それはわかりませんな。しかし、神の使いのドラゴンが人間の言うことを聞くとは、とても思えませんがの」
「・・・ドラゴンオーブか」
「我らが里に着く前に、世界の破滅が来ないことを祈るばかりですじゃ、」
老人は長く伸びた髭をなでた。
上空へ舞い上がったソーテラは、真っすぐ西へ飛行した。
先頭でまたがっているアレンは、激しい向かい風をまともにあびている。
目を固く閉じ、両腕でソーテラの首をつかんでいて、後ろから見るとみっともない姿だった。
「サッ、サリヤ、」
「えっ、なに?」
「おっ、俺は・・・持ってる・・・おっ、男だろ・・・」
声が震えていた。
サリヤは思わず苦笑した。
(怖いくせして、今言わなくてもいいのに・・・)
サリヤは後ろを向き、
「ねえギル、『愛してる』って古代の言葉でなんて言うの?」
「ええ、なんですかいきなり」
「いいから、なんて言うの?」
「そ、そうですね、いろいろありますが・・・『ティアモ』はどうですか?」
「ありがと!」
サリヤは前を向き、アレンの腰に両腕を回してギュっとチカラを入れた。
「ぐへぇ・・・サッ、サリヤ、なにすんだよ・・・苦しいじゃねえか、」
「ティアモ、アレン」
「なっ、何か言ったか?」
「大好きよ、」
サリヤは目を閉じ、アレンの背中に額を押し付けた。
「風の音がうるさくて聞こえねえよ!なんか言ったのか!」
「フフッ」
わめているアレンに、サリヤはそれ以上何も言わなかった。
ギルは後ろを向き、アクロスを見た。
アクロスはギルに向かってウインクをし、親指を立てた。
ギルの顔には、誇らしげな笑みが浮かんだ。
ギャワン!
しばらくして、ギルはサリヤの背中を叩いた。
サリヤが振り向くと、ギルは下を指さしている。
見ると、地面に大きく広がった砂が見えていた。
「あれは、崩れた砂の城」
そして、テンプ村が見えてきた。
「うわー、上から見ると、まるでお家が小さなオモチャみたい」
「砂漠も見えますね」
「おっ、海だ」
「あれはソリッドの港町!」
3人は、眼下に広がる景色に心を奪われた。
サリヤは固まっているアレンの背中を、トントンを指で叩いた。
「ねえ、アレン。これの景色を見ないと、一生後悔するわよ」
「なに!なんて言った!」
「下を見ないと!一生、こ・う・か・い、すーるーわーよぉぉー!」
「いいんだよ、俺は!」
サリヤの言葉にも、アレンはぎゅっと目を閉じたままだった。
「もったいないなー。きっと、もう二度と見れないのにね」
すると、前方に大きな雲の塊が見えてきた。
「おい、おい。まさか、あの雲に突撃する気か!?」
ギャワン!
ソーテラは一鳴きすると、迷うことなく雲の中に飛び込んでいった。
バサッ、
「うわぁー」
アレン達は、真っ白な霧の世界に飛び込んだ。
「凄い!雲の中ってこんなになってるのね!」
「濃い霧のようですね、」
「これは貴重な体験だな、」
(やはりアレンは目を閉じ、ソーテラの首にしがみついていた・・・)
雲を抜けると、再び真っ青な空に輝く太陽が4人を照らした。
「あの遠くに小さく見えるのは、もしかしてアブスト城かな・・・」
額に手をあてたギルが言った。
「なに!もうアブストまで戻ってきたというのか」
「早過ぎですよね、」
ドアをノックする音がした。
「ファリドにございます」
「入れ」
ギィーという音ともに、アブスト王の自室のドアが開かれた。
「何かあったのか、」
「当領地南方の海上を、飛行するドラゴンが視認されました」
「なに!ドラゴンだと!」
思わずアブスト王は、椅子から立ち上がった。
「はっ、白いドラゴンだったということです」
その言葉で、アブスト王は理解した。
(アレン・・・きっと君だな・・・ついにドラゴンオーブを手に入れたのか・・・)
「これは、何かが起こる前兆でございますか?」
「そうだな・・・」
アブスト王は、椅子に座った。
(今を生きる我ら人類にとって、これは歴史的な出来事・・・)
アブスト王は少し考えて、
「ファリド、」
「ははっ」
「全軍の警戒レベルを上げろ。いつでも戦時に即応できるようにな」
「はっ、かしこまりました!」
ファリドは一礼し、即座に退室した。
(アレン、君という存在がこの世界にとって何であったのか・・・その答えの出る時が、ついにきたな・・・)
アブスト王は立ち上がり、腕を組んだ。
(さて、吉と出るか・・・それとも・・・)
そして、ソーテラはウォルタ城上空へ飛来した。




